Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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抗NMDA受容体脳炎を再現する動物モデルの確立と治療効果の評価

2025年01月03日 | 自己免疫性脳炎
明けましておめでとうございます.本年もどうぞ宜しくお願いいたします.自分にできること,行うべきことを地道に頑張っていきたいと思います.

さて新年最初に注目した論文は,将来,当科でもこのような研究をしたいという初夢を思い描いた研究です.抗NMDA受容体(NMDAR)脳炎は,自己抗体がN-methyl-D-aspartate受容体のGluN1サブユニットに結合することで引き起こされる若年成人女性に好発する自己免疫性脳疾患です.この疾患は急性に発症し,精神症状や記憶障害,さらにはけいれんや運動異常を伴います.その経過から昔は悪魔による仕業と考えられ,映画「エクソシスト」の原作モデルは,本疾患であったとの指摘もあります.またこの疾患は免疫療法で改善しますが,回復まで長期を要する場合もあり,その体験談が日米で映画化されています.

さて疾患の治療開発には動物モデルが有効です.この疾患にもこれまでいくつか存在しましたが,それぞれに限界がありました.とくに新しい治療法の効果を評価するのに十分な長さの臨床経過とともに,この疾患の神経免疫学的特徴を包括的に再現することが求められていました.バルセロナ大学のDalmau教授らにより開発されたモデルは,これらの課題を克服し,より包括的な病態再現を可能にした点で革新的と言えます.

【動物モデルの構築】
8週齢の雌マウス(C57BL/6J)にGluN1356-385ペプチドを用いて,Day 1とDay 28に皮下注射して免疫化(immunization)を行い,免疫応答を促進するためにAddaVax(油中水型アジュバント)と百日咳毒素を併用しました.これによりマウスは免疫ペプチドおよびその他のGluN1領域に対するNMDAR抗体を血清および脳脊髄液中に産生しました.シナプスおよびシナプス外のNMDARクラスターが減少し,海馬の可塑性が低下しました.これらの所見は,主にB細胞および形質細胞,ミクログリアの活性化,ミクログリアとNMDAR-IgG複合体の共局在,およびミクログリア内エンドソーム内のこれらの複合体の存在と関連していました.行動テストでは,記憶障害や精神病様行動,抑うつ様行動などが確認されました.

【免疫療法とその効果】
35日目より行動の変化が現れた後,一部のマウスにはCD20抗体(35日目)を投与し,45日目から71日目まではNMDARのオールステリックモジュレーター(SGE-301;PAM-NMDAR)を投与しました.CD20抗体は,B細胞を除去し抗体産生を抑制すること,SGE-301は,NMDA受容体機能を回復させることを目的としています.実際にCD20抗体により記憶機能やNMDAR密度が回復しました.しかし,B細胞の再増殖によりその効果が徐々に薄れる傾向を認めました.一方,SGE-301はNMDAR密度を回復させ,記憶障害や行動異常を持続的に改善する効果を示しました.両治療を併用することで,効果を最大化できる可能性が示唆されました.



このモデルは,抗NMDAR脳炎の病態解明や治療法開発において非常に有用であると考えられます.自己免疫性脳炎をきたす抗神経抗体は非常に多く,それぞれの病態機序や最適な治療法の解明はほとんどできていない状況です.今後,各脳炎においてこのような動物モデルを作成することが重要だと思いました.
Maudes E, et al. Neuro-immunobiology and treatment assessment in a mouse model of anti-NMDAR encephalitis. Brain. 2024 Dec 24:awae410.(doi.org/10.1093/brain/awae410)




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