Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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頸をひねってめまいが出たら Rotational vertebral artery syndrome

2005年10月28日 | その他
「頸をひねると,めまいがでる」ということは案外よく耳にする症状である.じつはrotational vertebral artery syndrome(RVAS)という病名が提唱されていて(Neurology 54; 1376-79, 2000),頚部回旋により反復性の回転性めまい,眼振,失調症状が出現するという症候群である.今回,このRVAS 4名の血管造影写真(MRA, dynamic angiography)と眼球電図が韓国より報告されている.この4名の画像は面白いことに共通していて,①一側の椎骨動脈は描出されていない(低形成,もしくは動脈硬化).②残された他方の椎骨動脈は,正面を向いていれば開存しているが,③対側を向くと(例えば右椎骨動脈のみ開存していれば,左側を向くと)C1-2レベルで圧迫され血流は途絶してしまう!(ぜひ一度ご覧あれ)
 次に眼球電図は,最初は全員,下向き眼振(正確には水平方向,ねじれの成分もあって,3名では圧迫される椎骨動脈方向,1名ではその逆).さらに頚部をひねったまま保持しているとどういうわけか数秒後には眼振の向きが反転する.この眼振の機序については①内耳迷路説と②前庭神経核説が挙げられているが推測のレベルのようだ.
 また興味深い点として,①2名では回転性めまいの数秒後に耳鳴を訴えている,②頚部回旋を繰り返していると,めまいが誘発されなくなる現象(habituation,いわゆる慣れ)が見られる.著者らは①については前庭のほうが蝸牛より虚血に対して脆弱である可能性を考え,②に対しては虚血を繰り返すことにより虚血耐性現象(preconditioning)が起きている可能性を考えている(説得力はいまひとつ?だが,この著者は動物実験での知見に詳しい).
 さてRVASの意義について考えてみる.この症候群は回転性めまい,耳鳴,失調を来たすもののその他の神経症状はなく,かつ短時間で消失する.つまりこの病態は椎骨動脈系のTIAといっても何ら矛盾はない.逆に言えば,椎骨動脈系のTIAを疑った場合,RVASが存在しないか検討する必要がある.というのはこのRVASを保存的に治療した場合(抗凝固療法,ないしネックカラーなどを用いた頚部保護療法を指す),約半数が後に脳梗塞を来たすことが報告されているためである.とりわけ症状を繰り返す若年者では圧迫除去や頚椎の固定術など外科的な治療を検討すべきであろう.もし頚部回旋により誘発される回転性めまいを訴える患者さんに遭遇したら,念のためMRAで一側の椎骨動脈が描出されていないかを確認し,もしそうであればdynamic angiographyで頚部回旋により開存椎骨動脈への圧迫が生じるかを調べる,といった順序を踏むのが良いのではないであろうか?

Neurology 65; 1287-1290, 2005 
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4 Comments

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頸をひねってめまいが出たら (エコエコアザラク)
2005-12-04 17:49:22
頭をrotateして、頚部エコー(VA)をするのが診断に有効です。
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Thanks (pkcdekta)
2005-12-05 07:03:58
Good advice!
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文献教えてください (ペンギン)
2008-09-12 13:53:16
興味深い記事ありがとうございます。今rotational vertebral artery syncdrome に関して調べています。「RVASを保存的に治療した場合、半数で脳梗塞を来たすことが報告されている」の典拠文献を教えてください。私も購入して読みたいと思います。
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Unknown (管理人)
2008-09-13 16:24:07
これは原著論文の中に記載があったのではないかと思います.ご確認いただけますでしょうか.
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