Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

がんを神経から治療する! -cancer neuroscienceという新しい領域― 

2023年06月22日 | その他
最新号のNature誌に「がんを移植したマウスにα2アドレナリン受容体刺激剤(クロニジン)を大量投与するとガンの増殖を強く抑えることができる」というベルギーのからの論文が出ています.α2アドレナリン受容体は「交感神経活動のネガティブ・フィードバック」に関わる受容体ですので「交感神経活動を抑制するとがんの増殖を抑えられる!」ということになります.「神経とがんの関わり」はこれまで聞いたことがなかったため非常に驚きました.

じつは近年,「cancer neuroscience」という領域が注目されているようで,Science/Nature/Cell誌に総説が出ています.図1はScienceの総説の図ですが,①交感神経終末から放出されるノルエピネフリン(NE)ががん細胞表面の受容体に結合し増殖を促進する,②NEが血管内皮細胞に作用し血管新生を促進する,③がん細胞が神経栄養因子を放出し,神経のがんへの分枝・伸長を促進する,④神経細胞がマクロファージなどによるがん免疫を抑制する,という「神経とがんの関わり」を示しています.



図2はNatureの総説の図で,(a)は神経伝達物質や神経栄養因子ががん細胞をパラクラインで増殖させること,(b)(c)はAMPA受容体が介在する直接型,およびNMDA受容体が介在する間接型のグルタミン酸作動性シナプス結合によりがん細胞が増殖すること,(d)はがん細胞が微小管とgap junctionにより神経細胞のようなネットワークを作ること,(e)(f)は神経に沿って浸潤し,また腫瘍微小環境(血管新生・免疫反応)が神経細胞に影響を受けていること,を示しています.



図3はCellの総説の図で,がんの新しい治療標的と候補薬をまとめています.具体的には,神経細胞・がんシナプス,神経細胞様がん細胞ネットワーク,神経細胞・がんパラクライン,がん細胞誘導性軸索新生,神経性の血管新生,神経細胞・がん・免疫クロストーク,シナプス周囲がん細胞などが治療標的にまります.グリオーマや膵がんなどの難治性がんに対して,既存の治療に組み合わせた形で,これらの神経細胞をターゲットとした治療が今後行われるようです.



よってがん治療にも神経科学者が参入することになります.また脳神経内科医としては,がんの神経系への影響についても改めて考え直す必要を感じました.例えばNMDA受容体やAMPA受容体が出てきましたが,これらに対する抗体が病因となる傍腫瘍症候群ももっと複雑な病態なのかもしれません.
Zhu J, et al. Tumour immune rejection triggered by activation of α2-adrenergic receptors. Nature. 2023;618(7965):607-615. doi.org/10.1038/s41586-023-06110-8.

Servick K. War of nerves. Science365,1071-1073(2019). Doi.org/10.1126/science.365.6458.1071

Pan C, et al. Insights and opportunities at the crossroads of cancer and neuroscience. Nat Cell Biol. 2022;24(10):1454-1460. doi.org/10.1038/s41556-022-00978-w.

Winkler F, et al. Cancer neuroscience: State of the field, emerging directions. Cell. 2023 Apr 13;186(8):1689-1707. doi.org/10.1016/j.cell.2023.02.002.
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 演題募集開始!第11回日本難... | TOP | オランダにおいてALS患者の安... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | その他