Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

臨床研究とプロジェクトマネジメント

2016年07月17日 | 医学と医療
DIA(drug information association)は,1964年,サリドマイド事件を憂慮した30名のメンバーにて設立され,現在,世界中に18,000人以上の会員を有する医療用製品の研究開発に関わる専門家のための非営利団体である.産・学・官いずれの特定の組織からも影響を受けない中立の立場で活動が運営されている.米国,欧州,日本,中国などでさまざまな会議,ワークショップ,トレーニングコースが行われている.今回,DIAが主催する「第3回DIA医療機関向けプロジェクトマネジメントトレーニングコース―ケースで学ぶプロジェクトマネジメントの基本概要―」に関するトレーニングに参加し,大変勉強になったのでご紹介したい.

「プロジェクトマネジメント」は,プロジェクトを成功裏に完了させることを目指して行われる活動を指し,学問としても体系化されているが, 臨床研究を効果的・効率的に推進するためにも必要なコンセプトである.さらに臨床研究の「質」を維持・向上させる具体的な考え方としても近年,重視されている.

「プロジェクトマネジメント」が臨床研究で重視されることになった契機は,2015年10月,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(倫理指針)」に おいて,軽微でない侵襲かつ介入を伴う臨床研究においては「モニタリング」が義務付けられ,必要に応じて監査を実施することが明記されたことである.医師主導治験においては,人的,時間的,資金的な資源の制約が多いため,その成功のためには,その少ない資源を何とか有効に活用した運営が必要である.ここに「プロジェクトマネジメント」のコンセプトやツールを理解して実践することが有用なのだ.

今回のコースでは,医師主導臨床研究の仮想プロジェクトを題材に,「プロジェクトとは?」「プロジェクトマネジメントとは?」から始まり,プロジェクトを構成する各活動の計画立案,日程表の作成(タイムマネジメント;写真1),および進捗管理(リスクマネジメント;写真2)等を講義と実習で学んだ.「プロジェクトマネジメント」という学問について何も知らなかったので非常に勉強になったし,図や表といったツールを用いてプロジェクトを計画・実践していくことの有用性がよく理解できた.

参加したのは16名で,研究責任医師,スタディーマネジャー,研究事務局などの業務に携わる方々で,この領域に取り組んでおられる医療関係者と知り合いになれたことも嬉しかった.とくに医師主導臨床研究のプロジェクトマネジメントの習得を目指している若手医師・大学院生に知り合えたことは嬉しい驚きであった(神経内科医もいらっしゃった).すでに世界に通用する質の高い臨床研究・創薬研究におけるプロジェクトマネージャーの重要性を理解し,その習得を目指す先見の明に感服した.ただ自分の取り組みが学位になるのか,正当に評価されるのかという悩みも同時に抱えておられた.基礎研究が比較的少ない共著者数で,自身も第一著者になりやすいのに対し,インパクトの大きな臨床研究ほど共著者数は増え,縁の下の力持ち的なプロジェクトマネージャーが第一著者になることは難しいのかもしれない.知的財産,産学連携,臨床研究マネジメントといった創薬のために必要な知識や経験を積むことよりも,基礎研究論文のインパクトファクターばかり重視されるという従来の風潮は改める必要があるのではないだろうか.基礎研究の知見を実際の臨床に還元するのに不可欠なステップを理解し,そしてそれに取り組む若い医師・研究者が増えることが,日本から新しい医療を発信するために必要であると思う.

プロジェクトマネジメント
DIA Japan
入門書 図解入門よくわかる最新PMBOK第5版の基本 (How‐nual Visual Guide Book)


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 注目の「レム睡眠行動障害」... | TOP | ポケモンGOと「ヒポクラテス... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 医学と医療