Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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水俣を訪ねて

2011年07月03日 | 医学と医療
今回,国立水俣病総合研究センターを訪問した.私は新潟水俣病患者さんを診察する機会があり,熊本と新潟におけるメチル水銀中毒についてはいろいろな本を読み勉強をしてきたつもりであった.しかし初めて水俣の地を訪れて,驚くことがいくつもあった.

空路,博多入りし,九州新幹線で鹿児島県出水に到着,そしてオレンジ鉄道に乗り換え,水俣駅に到着した.駅を降りるとすぐ眼前に大きなチッソの工場がありまず驚いた.戦後の高度成長期に,水俣病を引き起こしたことで知られる会社だが,現在もこの地域の産業の中心的役割を果たしている.

水俣市は熊本県最南部に位置する.西は不知火海に面し,東は緑の木々が美しい山々に囲まれている.国立水俣病総合研究センターは山側の高いところにあり,美しい海を一望できる.天草の島々を望むとても風光明媚なところにあった.国立水俣病総合研究センターでは施設の見学や情報交換を行い,そしてセミナーを行わせていただき,とても有意義であった.

2日目は.国立水俣病総合研究センターに附属する施設である水俣病情報センターを訪問させていただいた.情報の提供や学術交流などを目的とする施設で,水俣病のあらましや原因究明,水銀研究の現状,そして世界における水銀汚染問題などの勉強ができる(補足参照).隣接する市立水俣病資料館では,水俣病患者さんを診察したビデオや,水銀中毒となった猫の症状のビデオを見ることができた.神経症状が自分が認識してきたものよりはるかに重症で,正直なところ大きなショックを受けた.

その後,親水公園を訪ねた.この公園は水俣湾のメチル水銀汚染地帯を埋め立てて作った公園であった.とにかくその広さには驚かされた.ここでは小学生やお年寄りが野球やゲートボールに興じていたが(写真),この緑の芝生の下にドラム缶詰めされた汚染土壌(水銀ヘドロ)が大量に埋まっていると思うと信じがたい気持ちになる.そして少し歩くと「水俣病慰霊の碑」がみえてくる.2006年,水俣病公式認定から50年を記念し建立された.碑文にはこう記載されていた.

不知火の海に在るすべての御霊よ
二度とこの悲劇は繰り返しません
安らかにお眠りください

最後に「百間排水口」を見学した.ここはメチル水銀化合物が工場排水と共に排出された排水口で,水俣病原点の地とも言われる.現在も浄化処理された工場排水,そして家庭からの生活排水が流れていているそうだ.

水俣を訪れることができて本当に良かった.水俣病を人類の教訓として重く受け止め,そして伝えていかねばならないと改めて思った.博多から九州新幹線であっという間なので,ぜひ訪問されることをお勧めしたい.


補足:
日本人の毛髪の水銀濃度は全国平均2.12 ppmだが,関東地方で高い傾向にあるそうだ.これはメチル水銀の濃度が高いまぐろの摂取量と相関している(大きな魚であるマグロは生物濃縮のためメチル水銀濃度約1 ppmとダントツに高い).ちなみに成人で神経症状出現が疑われる最小値は50 ppmであり,健康被害を心配する必要はないといえるが,妊婦さんはトロのお寿司は食べ過ぎないほうが良いように思う.

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