Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

パーキンソン病治療に革命をもたらすか!硬膜外脊髄電気刺激療法

2023年11月10日 | 運動異常症
将来のパーキンソン病(PD)治療を大きく変えるgame changerになるかもしれない研究がNature Medicine誌に報告されました.驚くべき報告です!発症30年が経過し,深部刺激療法を行っているものの,高度のすくみ足と転倒を認める62歳フランス人患者が,硬膜外脊髄電気刺激により歩行が可能になったというスイスからの報告です!

PD患者では,神経伝達物質ドーパミンを産生する神経細胞が障害された結果,「脳と脊髄の間のコミュニケーションが損なわれている」わけですが,植え込んだ脊髄インプラントは,大脳一次運動皮質の神経活動(つまり歩行意思)を記録しつつ,適切なタイミングで脊髄を刺激することで,患者の希望に沿った動作ができるようになるようです.

しかしそれにしても「なぜPDに対し脊髄刺激で歩行できるようになるのだろう?」と思いました.疾患のためうまく働かなくなった錐体外路をバイパスするということなのかなと思いましたが,さらに横山和正先生(東静脳神経センター)から「脊髄反射を利用するということですかね.今回の治療学会講演で藤原俊之先生が話をされていました」とコメントと下記文献をいただいて,理解が深まりました.

藤原俊之.歩行障害のリハビリテーション治療―経皮的脊髄電気刺激―.Jpn J Rehabil Med 2018:55:757-60.

この文献を読んで,歩行における「脊髄反射の重要性」が分かりました.「locomotor circuit(歩行運動関連回路)が脊髄に存在し,脳からの下行性入力により脊髄にあるlocomotor circuitに刺激が入るとステレオタイプな筋収縮による歩行運動が起こる」「このlocomotor circuitは脊髄反射から構成されている」「歩行運動だけを見るとその運動は脊髄反射により再現が可能」・・・だから大脳一次運動皮質の神経活動をトリガーにして,タイミングを合わせてlocomotor circuitの活動を脊髄刺激で上げるのですね.

チームはまず神経毒MPTPによるアカゲザル・モデル9頭でこの治療法の有効性を確認し,つぎに前述のPD患者1名における検討に移りました.刺激を最適化するためにセンサーを身体に取り付け,歩行障害パターンのデータを収集しました.そして脚が最も必要とするときに脊髄が刺激されるような設定を行い,脚の動きを正確に調整できるようにしました.この結果,動画のように歩行は顕著に改善しています.他の患者にも有効かどうかは不明ですが,今後,さらに6人にこの治療を行う予定だそうです.問題点は,侵襲的治療であることと,かなり高額な治療になることです.しかし進行期の運動症状に対して他の治療アプローチではここまでの改善は実現できておらず,当面,この治療法を中心に進んで行きそうな気がします.
Milekovic T, et al. A spinal cord neuroprosthesis for locomotor deficits due to Parkinson's disease. Nat Med. 2023 Nov 6. doi.org/10.1038/s41591-023-02584-1.

Parkinson’s spine stimulator ‘allows me to walk 5 kilometres without stopping’

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 読んでおくべき「アルツハイ... | TOP | 近未来の脳神経内科はCAR-T細... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 運動異常症