7月に開催されたMDSJのビデオセッションにて,専攻医下郷雅也先生が発表し,会場にどよめきをもたらした症候です.Neurol Clinical Neurosci誌に報告しました.
50代右利きの女性で,2年前から左腕を不随意に,ゆっくりと頭上に挙上する症状が,繰り返し出現するようになりました.右腕を使わなければ,自分の意志で左腕を下げることはできませんでした.じつは私が外来で初診し,手の空中浮遊(Arm levitation)にしては上がり過ぎだろうと思い,機能的神経障害(functional neurological disorder; FND)を疑い,いろいろなFNDの診察手技を試みました.例えば左腕から注意をそらしても減少せず(distraction),左腕に注意を向けても増加しませんでした(attention).精神疾患や身体化障害はなく,逆に神経診察で運動失調,パーキンソニズム,腱反射亢進を認め,困惑しました.入院していただき,下郷先生がしばらく隠れて観察していても,上肢の挙上は持続しました.MDS MSA criteriaでclinically probable MSAを満たし,MRIでputaminal rim sign,DATで取り込み低下,SPECTで右優位の両側前頭葉低灌流を認めました.十分な文献検索のうえ,手の空中浮遊はFNDによるものではなく,器質性のものと結論づけました.
本例より2つの新しい知見が得られました.第1に,MSAでもArm levitationを呈することがあること(ただし病理学的に確定したわけではなく,タウオパチー等の可能性もあります).ちなみに原因疾患として,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,脳卒中,ヤコブ病が報告されています.第2にArm levitationでは腕が肩関節を超えて上昇することがあるということです.調べた限り,本症例のように肩関節を超えて頭部に達した症例はありませんでした.
下郷雅也先生による最初の症例報告ですが,しっかりまとめてくださいました.若い先生方が症例報告を執筆する習慣が身につきつつあり,とても頼もしく感じています.
Shimozato M, Yoshikura N, Kimura A, Otsuki M, Shimohata T. Arm levitation in multiple system atrophy. Neurol Clinical Neurosci. 02 October 2023.(doi.org/10.1111/ncn3.12780)
50代右利きの女性で,2年前から左腕を不随意に,ゆっくりと頭上に挙上する症状が,繰り返し出現するようになりました.右腕を使わなければ,自分の意志で左腕を下げることはできませんでした.じつは私が外来で初診し,手の空中浮遊(Arm levitation)にしては上がり過ぎだろうと思い,機能的神経障害(functional neurological disorder; FND)を疑い,いろいろなFNDの診察手技を試みました.例えば左腕から注意をそらしても減少せず(distraction),左腕に注意を向けても増加しませんでした(attention).精神疾患や身体化障害はなく,逆に神経診察で運動失調,パーキンソニズム,腱反射亢進を認め,困惑しました.入院していただき,下郷先生がしばらく隠れて観察していても,上肢の挙上は持続しました.MDS MSA criteriaでclinically probable MSAを満たし,MRIでputaminal rim sign,DATで取り込み低下,SPECTで右優位の両側前頭葉低灌流を認めました.十分な文献検索のうえ,手の空中浮遊はFNDによるものではなく,器質性のものと結論づけました.
本例より2つの新しい知見が得られました.第1に,MSAでもArm levitationを呈することがあること(ただし病理学的に確定したわけではなく,タウオパチー等の可能性もあります).ちなみに原因疾患として,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,脳卒中,ヤコブ病が報告されています.第2にArm levitationでは腕が肩関節を超えて上昇することがあるということです.調べた限り,本症例のように肩関節を超えて頭部に達した症例はありませんでした.
下郷雅也先生による最初の症例報告ですが,しっかりまとめてくださいました.若い先生方が症例報告を執筆する習慣が身につきつつあり,とても頼もしく感じています.
Shimozato M, Yoshikura N, Kimura A, Otsuki M, Shimohata T. Arm levitation in multiple system atrophy. Neurol Clinical Neurosci. 02 October 2023.(doi.org/10.1111/ncn3.12780)