Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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FTLD-FUSからFTLD-FETへ:TAF15 proteinopathyの疾患概念の誕生

2023年12月12日 | 認知症
前頭側頭葉変性症(FTLD)は分子病理学的に,タウ,TDP-43,FUS(fused in sarcoma)といったタンパク質の蓄積がみられるため,FTLD-Tau,FTLD-TDP,FTLD-FUSに分類されます.前者2つでFTLDの大部分(90%程度)を占めます.

最新号のNature誌にFTLD-FUSにおける大きな進展が報告されました.まず前提となる情報として,FTLD-FUSにおける神経細胞細胞質封入体はFUSのみならず,FUSのホモログであるTATA結合タンパク質関連因子15(TAF15)とユーイング肉腫(EWS)タンパク,transportin1に対しても免疫反応性があることが示されていました.これらFUS,EWS,TAF15は相同性のあるRNA結合タンパク質で,総称してFETタンパク質とも呼ばれていました(よってFTLD-FUSはFTLD-FETと呼ぶべきという意見がありました)

さて論文ですが,英国からFTLD-FUSの4人の前頭前皮質と側頭皮質から抽出したアミロイドフィラメントの構造を,クライオ電顕を用いて決定した研究が報告されました.驚いたことに,FUSそのものではなく,TAF15のアミロイドフィラメントが豊富に見つかりました(図1).1人の患者では,AβとTMEM106Bフィラメントの非存在下で,TAF15フィラメントが特異的に検出されています.



図2は,フィラメントの折りたたみ構造ですが,左巻きらせん状のねじれを持つ1本のプロトフィラメントからなり,TAF15のN末端,低複雑性ドメイン(LCD)の一部7~99残基から構成される秩序立った折りたたみでc,4症例で同一の構造でした.より具体的には13本のβストランドが全残基の57%を占め(図2b),アミロイドフィラメントに特徴的な平行なβシートを形成しています.



また認知症を発症する前にALSと臨床診断を受けていた2例のうち1例は,運動皮質と脳幹に上記と同じ構造を持つTAF15アミロイドフィラメントが豊富に存在していました.これらの症例では上位および下位運動ニューロンの変性を示し,それぞれにFUS,EWS,TAF15,transportin1陽性封入体を認めていました.

そうなると気になるのはTAF15遺伝子です.TDP-43やタウではそれらをコードする遺伝子に変異があると遺伝性FTLDとなりますが,FUSの遺伝子変異はFTLDとは関連がありません.TAF15の遺伝学的研究はまだ報告されていないようですが,ALSではTAF15の変異が(その病原性は確認されていないものの)報告されているそうで気になります.

以上より,TAF15は,タウ,TDP-43,αシヌクレインなどと並んで,神経変性疾患に関連するアミロイドフィラメントを形成するタンパク質の1つとして加わったことになります.著者はFTLD-FUSという用語をやめて,前述のFTLD-FETを用いることを強く主張しています.私も当然そうすべきと思いました.
Tetter, S., Arseni, D., Murzin, A.G. et al. TAF15 amyloid filaments in frontotemporal lobar degeneration. Nature (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06801-2

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