Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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アルツハイマー病本格的治療への糸口:ミクログリアへのApoEとタウの結合バランスが発症の決め手となる

2023年12月18日 | 認知症
Cell誌最新号の報告です.早発型アルツハイマー病を来すプレセニリン1遺伝子変異を有するにも関わらず,70歳代になっても認知症を発症しない患者が報告されていました.全エクソーム解析を実施したところ,ApoE3遺伝子ホモ変異(R136S,Christchurch変異)がみつかりました.この患者の脳にはアミロイドβ(Aβ)が蓄積していましたが,異常なタウの播種・伝搬や神経変性は認めませんでした.In vitroの実験で,変異遺伝子によりコードされるApoE3chは野生型ApoE3と比べ,Aβ42の凝集を生じにくいことが示されていました.

今回,米国ワシントン大学から,APOE3chはミクログリアの反応を変化させAβにより誘導されるタウの播種・伝搬を抑制するという報告がなされました.ヒトApoE3chを発現するヒト化ノックイン(KI)マウスを作製し,APOE3chがAβ沈着とAβにより誘導されるタウの播種・伝搬に影響を及ぼすかを調べることを目的として,APOE3ch KIマウスとアルツハイマー病(AD)モデルマウスAPPPS1-21(APP/PS1)と交配させています.そのうえでAβ誘導性タウ播種・伝搬を評価するために,ヒト患者由来の不溶性タウ線維を脳内に注射しています.

まずAPOE3ch KIマウスの特徴ですが,患者と同様に,血中コレステロール異常が見られ,VLDLが上昇していました.これは脂質を運搬するAPOE3chと白血球のLDL受容体の結合が低いため,コレステロールが血中からクリアランスされにくいためと考えられました(図A).

つぎに興味深いことに,APOE3ch KIマウスではAβの沈着と,その周囲のタウ播種・伝搬が顕著に減少していることが分かりました(図B).そしてAβプラーク周囲ではミクログリアが活性化し(リソソーム活性↑),貪食とヒトタウ線維の分解が亢進していることも分かりました(図C).



このメカニズムはタウとAPOE3がミクログリアで同じ受容体を使っているため(ヘパリン硫酸プロテオグリカン;HSPGとLDL Receptor-Related Protein;LRP1),APOEの種類によってこれら受容体との結合力に変化が生じます.ここで受容体への結合力の弱いAPOE3chの場合,ミクログリアはタウとより結合ができることになり,貪食が進み分解が亢進します.さらに,APOE3ch発現細胞は,APOE3発現細胞と比較して,以前に貪食したタウの分泌量が少ないことが示され,タウ拡散の減少に寄与している可能性が示唆されました(図C中央).

結論として,APOE3chとミクログリアの相互作用により,Aβ誘導性タウの貪食・分解が亢進し,神経細胞への播種・伝播を阻害することが示唆されました.つまりAD発症の背景にはミクログリアをめぐるAβ,タウ,APOEの複雑なバランスが関与していることが分かりました.そしてミクログリアは重要なADの治療標的であり,ミクログリアを活性化し,タウとの結合力を上昇させることができれば,Christchurch変異の効果を考えると,ADの発症を遅らせることができる可能性が高いと考えられます.
Chen Y, et al. APOE3ch alters microglial response and suppresses Aβ-induced tau seeding and spread. Cell. 2023 Dec 6:S0092-8674(23)01315-6.(doi.org/10.1016/j.cell.2023.11.029)

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