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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(7月24日)  

2023年07月24日 | COVID-19
今回のキーワードは,COVID-19無症候感染者(感染しても症状を認めない人)の遺伝子多型が発見された,long COVID発症に関わる遺伝子多型が初めて発見された,long COVID発症を予測する診断時の臨床症候が同定された,メモリーT細胞の活性化が不十分な患者はlong COVIDを呈する,初期のウイルス動態とそれに伴う宿主免疫応答がlong COVIDの発症に関与している,です.

感染しても無症状のひとの遺伝的特徴,また感染後にlong COVIDになってしまう人の遺伝的・臨床的・免疫学的特徴が明らかにされました.やはりCOVID-19は,個人の遺伝的・免疫学的な特徴により,無症状であることも,重症化・長期化することも規定されていることになります.long COVIDに移行する危険因子として,頭痛の既往,診断時における頻脈,疲労,神経認知・神経過敏性の症状,呼吸困難が同定されましたが,このような場合,抗ウイルス薬やワクチン接種によりlong COVID発症を積極的に予防すべき方向に進むのかもしれません.またWHOの定義(PCC)を満たしたlong COVID患者の2年間の前方視的解析で,回復したのは7.6%のみ,重症度で3群に分類した場合の軽症群に限られることも示されています.重症化・長期化はルーレットのようなものなので,感染予防は必要だと思います.

◆COVID-19無症候感染者の遺伝子多型が発見された.
アメリカで骨髄移植のドナーとして登録されている約3万名について調査が行われ,ワクチン無接種でCOVID-19に感染した1428名のうち,136人の無症候感染者を見出した.この136人はヒト白血球抗原(HLA)遺伝子座の多型HLA-B*15:01の保有率が,症状が出現した感染者と比べて2.40倍高いことが判明した.同様の結果が英国とCHIRP/LIINCコホートでも確認された(オッズ比3.56および3.44).感染しても症状が出現しない機序を明らかにするため,HLA-B*15:01保有者のT細胞を調べたところ,感染の経験がないにもかかわらずSARS-CoV-2ウイルスの一部であるNQKLIANQFペプチドに反応した.NQKLIANQF(NQK-Q8)に非常によく似たペプチドNQKLIANAF(NQK-A8)を季節性コロナウイルス(OC43-CoVとHKU1-CoV由来)が有している.HLA-B*15:01-ペプチド複合体の結晶構造から,NQK-Q8とNQK-A8は,HLA-B*15:01によって安定化され提示される能力が共通していることが確認された(図1).つまり2つのペプチド配列の類似性を頼りに,HLA-B*15:01保有者T細胞はSARS-CoV-2ウイルスを迅速かつ効果的に反応できるものと推測された.
Nature. 2023 Jul 19.(doi.org/10.1038/s41586-023-06331-x)



◆Long COVID発症に関わる遺伝子多型が初めて発見された.
Long COVIDの発症に関連する遺伝的要因を明らかにするために,16カ国の24研究から得られた6450人のlong COVID患者と109万3995人例の対照を検討した全ゲノム関連解析(GWAS)が報告された.この結果,ほぼどの組織でも発現する転写因子FOXP4の遺伝子領域rs9367106地点の塩基がシトシンの人ではlong COVIDの出現率はそうでない人に比べて1.6倍高いことが示された(図2).これまでの研究でFOXP4とCOVID-19重症度の関連が示されているが,重症度に対する影響よりも,むしろlong COVIDに対する影響の方がはるかに強かった.FOXP4は重症度を介してではなく,long COVIDに強く関連するものと考えられた.
medRxiv. July 01, 2023.(doi.org/10.1101/2023.06.29.23292056)



◆long COVID発症を予測する診断時の臨床症候が同定された.
スペインにて行われた,long COVID患者に対する2年間の前向きコホート研究が報告された.long COVID患者341人を対象とし,中央値23ヵ月の追跡が行われた.COVID-19診断時における,頭痛の既往,頻脈,疲労,神経認知・神経過敏性の症状,呼吸困難はlong COVIDの発症を予測した.またlong COVIDは症状の組み合わせから,3つクラスター(A,B,C)に分類できた(図3).追跡調査中にlong COVIDから回復したのは26名(7.6%)のみで,最初の2年間に回復することは極めてまれであった.また回復した者のほとんどは,主に疲労を呈する症状の軽いクラスターAに属していた.筋痛,注意力低下,呼吸困難,頻脈を呈した患者では回復が少なかった.
Lancet preprint. SSRN: http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4505315



◆メモリーT細胞の活性化が不十分な患者はlong COVIDを呈する.
long COVIDの免疫異常は主にB細胞免疫の研究がなされ,T細胞免疫の関与は十分に明らかにされていなかった.日本からの後方視的研究で,long COVIDの症状の数,サイトカインレベル,ELISPOTアッセイデータの関係を検討した研究が報告された(ELISPOTアッセイは,INF-γ産生メモリーT細胞の活性化能を評価する検査).ELISPOT低値群では高値群に比べ,持続する症状の数が有意に多かった(図4).つまりSARS-CoV-2抗原特異的メモリーT細胞の活性化が不十分な患者は,発症初期により多様な症状を示すということになる.T細胞免疫はlong COVID発症の防止に重要な役目を果たすことから,急性期直後のT細胞免疫の評価は,long COVODへの移行の予測に有用な可能性がある.
Sci Rep 13, 11071 (2023).(doi.org/10.1038/s41598-023-35505-w)



◆初期のウイルス動態とそれに伴う宿主免疫応答がLong COVIDの発症に関与している.
long COVID患者における急性期のウイルス動態と宿主免疫応答の役割を理解するために,SARS-CoV-2リアルタイムPCRが陽性になってから5日以内の患者136名を検討した.完全に回復した患者と比較して,long COVIDを発症した患者は,急性期の最初の10日間において,SARS-CoV-2 RNA(図5),感染性ウイルス,N-抗原の最大値が有意に高く,ウイルス排出期間が長く,かつスパイク特異的IgG値が低かった.long COVIDに移行した患者では,完全回復者と比較し有意差は認めなかったものの,MCP-1,IFN-α,IFN-γなどの初期値が高い傾向がみられた.以上より,急性期におけるウイルス感染の程度とそれに伴う宿主免疫応答がlong COVIDの発症に関与しているものと考えられた.
medRxiv. July 16, 2023.(doi.org/10.1101/2023.07.14.23292649)



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