今回のキーワードは,5~11歳児では,1カ月後に感染に対するファイザー・ワクチンの予防効果が65%から12%に低下する,60歳以上のCOVID-19退院患者で認知症のリスクは上昇する,感染4か月半後の評価で,COVID-19感染者には意思決定に重要な役割を果たす眼窩前頭皮質などに顕著な器質的な変化が生じている,Long COVID患者では後遺症をきたすsmall fiber neuropathyが生じる,です.
COVID-19感染は認知症の危険因子になる可能性が指摘されてきましたが,それを裏付ける決定的な研究がJAMA Neurol誌とNature誌に報告されました.とくに3つ目の論文で紹介する後者の論文は衝撃的で,COVID-19感染者では意思決定に重要な役割を果たす眼窩前頭皮質などの萎縮が,非感染者と比べて明らかに顕著であることが示されました(図1).しかもこの変化は入院を要さなかった患者でも認めました.COVID-19は決して風邪やインフルエンザのような疾患ではなく,極力,感染を予防する必要があります.
◆5~11歳児では,1カ月後に感染に対するファイザー・ワクチンの予防効果が65%から12%に低下する.
Science誌のNEWS欄で,ファイザー・ワクチンを接種した5~11歳の子供は,入院(重症化)に対する防御は持続するが,感染に対する防御はわずか1ヶ月で失われるというプレプリント論文が議論されている.この結果は専門家たちを失望させた.というのも,この年齢層に対して米国で認可されているのはファイザー・ワクチンだけだからだ.この研究ではニューヨーク州のデータベースを利用し,100万人以上の5~17歳のワクチン接種者と非接種者を比較している.12月後半までに2回接種した5~11歳児では,1カ月後に感染に対する予防効果が65%から12%に低下した(図2).同時期に接種した10代では76%から56%の低下であった.論文では10代の若者よりも小さい子供たちの方が,接種したワクチン量が少なかったため感染予防効果が早期に失われた可能性があると指摘している.
Science NEWS March 3, 2022
◆60歳以上のCOVID-19退院患者で認知症のリスクは上昇する.
中国武漢から,高齢のCOVID-19感染後生存者において認知機能の1年間の変化を追跡した研究が報告された.対象は3つのCOVID-19指定病院から退院した60歳以上の生存者とした.その非感染の配偶者を対照とした.最終的に生存者1438名と対照者438名の6ヵ月後と12ヵ月後の認知機能を評価した.退院後12カ月後の生存者における認知症の有病率は12.4%であった.重症例ではTelephone Interview of Cognitive Status-40スコアが非重症例および対照よりも低かった(中央値:重症22.50,非重症30.00,対照31.00)(図3).重症のCOVID-19症例では,早期発症の認知症(オッズ比4.87),後期発症の認知症下(7.58)および進行性認知症(19. 00)のリスクと関連していた.一方,非重症COVID-19は早期発症の認知症(1.71)のリスクと関連していた.以上より,COVID-19感染は認知症のリスク上昇と関連した.パンデミックが将来の認知症診療に与える影響を評価する必要がある.
JAMA Neurol. March 8, 2022(doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.0461)
◆感染4か月半後の評価で,COVID-19感染者には意思決定に重要な役割を果たす眼窩前頭皮質などに顕著な器質的な変化が生じている.
英国のUK Biobankに登録された51~81歳で,2回の頭部MRI検査を行い,その検査の間隔(平均日数141日;4か月半)の間にCOVID-19感染を経験した401名と,対照384名の脳の変化を比較した.この結果,感染者では以下の有意な経時的な影響が確認された.(i) 眼窩前頭皮質(意思決定に重要な役割を果たす)および海馬傍回における灰白質厚および組織コントラストの大幅な減少,(ii) 一次嗅覚皮質と,機能的に関連する領域における組織損傷マーカーの大きな変化,(iii) 全脳サイズの大幅な減少,である.また感染者は対照より大きな認知機能の低下を示した.驚くべきことに,これらの画像および認知機能の変化は,入院患者15名を除いても確認された.主に大脳辺縁系の所見は,嗅覚伝導路を介した神経変性,神経炎症,または無嗅覚による感覚入力の喪失が影響した可能性がある.これらの変化が回復しうるものか,あるいは長期的に持続するかについては,さらなる追跡調査が必要である.
Nature (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04569-5
◆Long COVID患者では後遺症をきたすsmall fiber neuropathyが生じる.
Long COVIDに認められる末梢神経障害について検討した研究がMGHより報告された.WHOの定義を満たすLong COVID症例で,末梢神経障害の評価のために紹介された患者の横断的および縦断的データを分析した(図4).17名の患者(平均年齢43.3歳,女性69%,白人94%,ラテン系19%)を平均1.4年間追跡した.結果としては59%が神経障害を示す検査異常を1つ以上有していた.その内訳は,皮膚生検63%(10/16),電気生理検査17%(2/12),自律神経機能検査50%(4/8)であった.COVID-19の症状軽快から3週間後に1名がcritical illness軸索ニューロパチー,1名が多巣性脱髄性ニューロパチーと診断され,10名以上がsmall fiber neuropathyと診断された.経時的な観察で改善を52%に認めたが,完全治癒した症例はなかった.治療としては65%(11/17)が免疫療法(ステロイドand/or免疫グロブリン静注)を受けた.以上より,Long COVID患者で長期にわたり,かつしばしば後遺症の残るsmall fiber neuropathyが最も多く生じる.感染によって引き起こされる免疫異常が共通のメカニズムである可能性がある.
Neurology. March 1, 2022(doi.org/10.1212/NXI.0000000000001146)
COVID-19感染は認知症の危険因子になる可能性が指摘されてきましたが,それを裏付ける決定的な研究がJAMA Neurol誌とNature誌に報告されました.とくに3つ目の論文で紹介する後者の論文は衝撃的で,COVID-19感染者では意思決定に重要な役割を果たす眼窩前頭皮質などの萎縮が,非感染者と比べて明らかに顕著であることが示されました(図1).しかもこの変化は入院を要さなかった患者でも認めました.COVID-19は決して風邪やインフルエンザのような疾患ではなく,極力,感染を予防する必要があります.
◆5~11歳児では,1カ月後に感染に対するファイザー・ワクチンの予防効果が65%から12%に低下する.
Science誌のNEWS欄で,ファイザー・ワクチンを接種した5~11歳の子供は,入院(重症化)に対する防御は持続するが,感染に対する防御はわずか1ヶ月で失われるというプレプリント論文が議論されている.この結果は専門家たちを失望させた.というのも,この年齢層に対して米国で認可されているのはファイザー・ワクチンだけだからだ.この研究ではニューヨーク州のデータベースを利用し,100万人以上の5~17歳のワクチン接種者と非接種者を比較している.12月後半までに2回接種した5~11歳児では,1カ月後に感染に対する予防効果が65%から12%に低下した(図2).同時期に接種した10代では76%から56%の低下であった.論文では10代の若者よりも小さい子供たちの方が,接種したワクチン量が少なかったため感染予防効果が早期に失われた可能性があると指摘している.
Science NEWS March 3, 2022
◆60歳以上のCOVID-19退院患者で認知症のリスクは上昇する.
中国武漢から,高齢のCOVID-19感染後生存者において認知機能の1年間の変化を追跡した研究が報告された.対象は3つのCOVID-19指定病院から退院した60歳以上の生存者とした.その非感染の配偶者を対照とした.最終的に生存者1438名と対照者438名の6ヵ月後と12ヵ月後の認知機能を評価した.退院後12カ月後の生存者における認知症の有病率は12.4%であった.重症例ではTelephone Interview of Cognitive Status-40スコアが非重症例および対照よりも低かった(中央値:重症22.50,非重症30.00,対照31.00)(図3).重症のCOVID-19症例では,早期発症の認知症(オッズ比4.87),後期発症の認知症下(7.58)および進行性認知症(19. 00)のリスクと関連していた.一方,非重症COVID-19は早期発症の認知症(1.71)のリスクと関連していた.以上より,COVID-19感染は認知症のリスク上昇と関連した.パンデミックが将来の認知症診療に与える影響を評価する必要がある.
JAMA Neurol. March 8, 2022(doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.0461)
◆感染4か月半後の評価で,COVID-19感染者には意思決定に重要な役割を果たす眼窩前頭皮質などに顕著な器質的な変化が生じている.
英国のUK Biobankに登録された51~81歳で,2回の頭部MRI検査を行い,その検査の間隔(平均日数141日;4か月半)の間にCOVID-19感染を経験した401名と,対照384名の脳の変化を比較した.この結果,感染者では以下の有意な経時的な影響が確認された.(i) 眼窩前頭皮質(意思決定に重要な役割を果たす)および海馬傍回における灰白質厚および組織コントラストの大幅な減少,(ii) 一次嗅覚皮質と,機能的に関連する領域における組織損傷マーカーの大きな変化,(iii) 全脳サイズの大幅な減少,である.また感染者は対照より大きな認知機能の低下を示した.驚くべきことに,これらの画像および認知機能の変化は,入院患者15名を除いても確認された.主に大脳辺縁系の所見は,嗅覚伝導路を介した神経変性,神経炎症,または無嗅覚による感覚入力の喪失が影響した可能性がある.これらの変化が回復しうるものか,あるいは長期的に持続するかについては,さらなる追跡調査が必要である.
Nature (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04569-5
◆Long COVID患者では後遺症をきたすsmall fiber neuropathyが生じる.
Long COVIDに認められる末梢神経障害について検討した研究がMGHより報告された.WHOの定義を満たすLong COVID症例で,末梢神経障害の評価のために紹介された患者の横断的および縦断的データを分析した(図4).17名の患者(平均年齢43.3歳,女性69%,白人94%,ラテン系19%)を平均1.4年間追跡した.結果としては59%が神経障害を示す検査異常を1つ以上有していた.その内訳は,皮膚生検63%(10/16),電気生理検査17%(2/12),自律神経機能検査50%(4/8)であった.COVID-19の症状軽快から3週間後に1名がcritical illness軸索ニューロパチー,1名が多巣性脱髄性ニューロパチーと診断され,10名以上がsmall fiber neuropathyと診断された.経時的な観察で改善を52%に認めたが,完全治癒した症例はなかった.治療としては65%(11/17)が免疫療法(ステロイドand/or免疫グロブリン静注)を受けた.以上より,Long COVID患者で長期にわたり,かつしばしば後遺症の残るsmall fiber neuropathyが最も多く生じる.感染によって引き起こされる免疫異常が共通のメカニズムである可能性がある.
Neurology. March 1, 2022(doi.org/10.1212/NXI.0000000000001146)