今回のキーワードは,COVID-19に伴う意識障害は回復する可能性が高い,Long COVIDとしての認知機能障害は,時間経過とともに改善する可能性がある,感染後の嗅覚・味覚障害に関わる遺伝子が同定された,COVID-19ワクチン接種における有害事象において心理的な影響(ノセボ反応)はかなり強い,です.
今回はCOVID-19に伴う意識障害や認知機能障害の長期的な評価に関する報告と,嗅覚・味覚障害を引き起こしやすい遺伝的背景が存在することが報告されました.ノセボ反応とは,本来,薬として効果を持たないものを服用しているのに,望まない有害事象が現れることを言いますが,COVID-19ワクチンではそれらがかなりの頻度で認められることが報告されました.ノセボ反応は心理的な影響が大きく「この薬は有害である」と思い込むと出現しやすくなります.ノセボ反応による副反応を減らすためにも,ワクチンの有用性,安全性を改めて分かりやすく説明していくことが求められると思います.
◆COVID-19に伴う意識障害は回復する可能性が高い.
COVID-19の神経合併症に意識障害がある.原因は不明だが,脳の損傷,全身炎症,低酸素血症,鎮静剤の残存などが疑われている.また予後も不明であり,生命維持治療の継続の判断を困難にしている.今回,米国から意識障害の予後と画像検査を評価した前向き縦断研究が報告された.対象は鎮静や顕著な脳損傷(微小出血や白質変化は含まない)では説明困難な意識障害を呈する重症成人患者12名(年齢中央値63.5歳)である.登録直後に1名が死亡した.残り11名は全例,鎮静中止後0~25日(中央値7日)で意識が回復した.退院時には全員,常時介助の状態であったが,退院3ヵ月後には60%以上が自宅に戻り,6ヵ月後には,重症のポリニューロパチーを合併した2名を除き,75%の患者が正常な認知機能と最小限の障害(筋力低下,痛み)で自宅生活をしていた.既報のように,数週間から数か月にわたる意識障害ではなく,50%の患者が鎮静剤を中止して1週間以内に意識を回復した.Glasgow Outcome ScaleとDisability Rating Scaleで評価し,経時的な回復を確認した(図1).意識障害の原因を検討するために, 10名でfMRIと拡散テンソル画像を実施したところ,機能的結合性および大脳白質の構造的結合性とも健常群と比較して低下し,とくに後者は重症外傷性脳損傷(TBI)患者と同程度で,これらが意識障害に関与した可能性が考えられた.以上,生命維持治療の継続の判断の際に,重症患者でも意識障害が回復する可能性が高いことを認識する必要がある.
Neurology. Dec 3, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000013067)
◆Long COVIDとしての認知機能障害は,時間経過とともに改善する可能性がある.
Long COVIDの症候のひとつに認知機能障害があるが,その持続期間に関するエビデンスはない.エクアドルから,COVID-19感染者と非感染者を対象に,モントリオール認知機能評価(MoCA)を経時的に4回施行し,認知機能の経時変化を検討した研究が報告された.4回の評価で,うち2回はパンデミック前,残り2回は第1波から6カ月後,18カ月後に行った.対象は78名で,50名が軽症の感染者,28名が非感染者であった.感染から6か月後の評価で,感染者群でMoCAスコアの有意な低下を示したが(β=-1.37,p<0.001),1年間のフォローアップ後には回復した(β=0.66,p=0.092).非感染者群では,パンデミック後のMoCAスコアに差を認めなかった.以上よりCOVID-19に伴う認知機能の低下は永続的ではなく,時間経過とともに自然に改善する可能性がある.
Eur J Neurol. Dec 16, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15215)
◆感染後の嗅覚・味覚障害に関わる遺伝子が同定された.
DNAテストのパイオニア米国23andMe社が,顧客6万9841人(女性63%,男性37%)からCOVID-19に伴う嗅覚・味覚障害に関する自己申告データを収集した.感染者の約3分の2が嗅覚・味覚障害を報告した.嗅覚・味覚障害の有無で,ヨーロッパ系,ラテン系,アフリカ系,東アジア系,南アジア系の人々を対象としたゲノムワイド関連研究(GWAS)を行った.この結果,UGT2A1とUGT2A2という2つの遺伝子の近傍に位置する一連のバリアントが,感染後に嗅覚・味覚障害を発症する確率を11%増加させることを見出した.図2はUGT2A1/UGT2A2遺伝子座の周辺をプロットしたもので,色はインデックスSNP(rs7688383)に対する連鎖不平衡の強さ(r2)を示している.これらの遺伝子はいずれも嗅覚上皮で発現しており,嗅覚に関与する受容体に結合する匂い物質の除去に関わる酵素(ウリジン二リン酸の糖転移酵素ファミリーの一員)をコードしていた.これらが嗅覚・味覚障害に関わるメカニズムは不明だが,その局在と,匂い物質の代謝および除去に必須の機能を考慮すると,病態に関与する可能性が高い.また嗅覚・味覚障害は女性や若い人に生じ易く,東アジア人やアフリカ系アメリカ人の祖先を持つ人は,ヨーロッパ人の祖先を持つ人に比べて有意に低かった(オッズ比=0.8および0.88).
Nat Genet. Jan 17, 2022.(doi.org/10.1038/s41588-021-00986-w)
◆COVID-19ワクチン接種における偽薬群での有害事象(ノセボ反応)はかなり多い.
偽薬使用後の有害事象は臨床試験においてしばしば認められる.今回,COVID-19ワクチン接種におけるノセボ反応に関するシステマティックレビュー,メタ解析が報告された.16歳以上の成人を対象としたランダム化比較試験で,接種後7日以内の有害事象を評価した.結果として,4万5380 名(うち偽薬接種者が2万2578 名)が対象となる12 件の有害事象報告書を解析した.初回接種後,偽薬接種者の35.2%が全身性有害事象を経験した(図3).頭痛(19.3%)と疲労(16.7%)が最も多かった.2回目の接種後,偽薬接種者の31.8%が全身性有害事象を経験した.ワクチン群で,有意に多くの有害事象が認められたが,偽薬群での有害事象(ノセボ反応)は,ワクチン初回接種後の全身性有害事象の76%,2回目接種後の52%に相当した.以上より,COVID-19ワクチン臨床試験での偽薬群で報告された有害事象の割合はかなりの高率であった.この知見を公的なワクチン接種プログラムにおいて考慮する必要がある.
JAMA Netw Open. 2022;5(1):e2143955.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.43955)
今回はCOVID-19に伴う意識障害や認知機能障害の長期的な評価に関する報告と,嗅覚・味覚障害を引き起こしやすい遺伝的背景が存在することが報告されました.ノセボ反応とは,本来,薬として効果を持たないものを服用しているのに,望まない有害事象が現れることを言いますが,COVID-19ワクチンではそれらがかなりの頻度で認められることが報告されました.ノセボ反応は心理的な影響が大きく「この薬は有害である」と思い込むと出現しやすくなります.ノセボ反応による副反応を減らすためにも,ワクチンの有用性,安全性を改めて分かりやすく説明していくことが求められると思います.
◆COVID-19に伴う意識障害は回復する可能性が高い.
COVID-19の神経合併症に意識障害がある.原因は不明だが,脳の損傷,全身炎症,低酸素血症,鎮静剤の残存などが疑われている.また予後も不明であり,生命維持治療の継続の判断を困難にしている.今回,米国から意識障害の予後と画像検査を評価した前向き縦断研究が報告された.対象は鎮静や顕著な脳損傷(微小出血や白質変化は含まない)では説明困難な意識障害を呈する重症成人患者12名(年齢中央値63.5歳)である.登録直後に1名が死亡した.残り11名は全例,鎮静中止後0~25日(中央値7日)で意識が回復した.退院時には全員,常時介助の状態であったが,退院3ヵ月後には60%以上が自宅に戻り,6ヵ月後には,重症のポリニューロパチーを合併した2名を除き,75%の患者が正常な認知機能と最小限の障害(筋力低下,痛み)で自宅生活をしていた.既報のように,数週間から数か月にわたる意識障害ではなく,50%の患者が鎮静剤を中止して1週間以内に意識を回復した.Glasgow Outcome ScaleとDisability Rating Scaleで評価し,経時的な回復を確認した(図1).意識障害の原因を検討するために, 10名でfMRIと拡散テンソル画像を実施したところ,機能的結合性および大脳白質の構造的結合性とも健常群と比較して低下し,とくに後者は重症外傷性脳損傷(TBI)患者と同程度で,これらが意識障害に関与した可能性が考えられた.以上,生命維持治療の継続の判断の際に,重症患者でも意識障害が回復する可能性が高いことを認識する必要がある.
Neurology. Dec 3, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000013067)
◆Long COVIDとしての認知機能障害は,時間経過とともに改善する可能性がある.
Long COVIDの症候のひとつに認知機能障害があるが,その持続期間に関するエビデンスはない.エクアドルから,COVID-19感染者と非感染者を対象に,モントリオール認知機能評価(MoCA)を経時的に4回施行し,認知機能の経時変化を検討した研究が報告された.4回の評価で,うち2回はパンデミック前,残り2回は第1波から6カ月後,18カ月後に行った.対象は78名で,50名が軽症の感染者,28名が非感染者であった.感染から6か月後の評価で,感染者群でMoCAスコアの有意な低下を示したが(β=-1.37,p<0.001),1年間のフォローアップ後には回復した(β=0.66,p=0.092).非感染者群では,パンデミック後のMoCAスコアに差を認めなかった.以上よりCOVID-19に伴う認知機能の低下は永続的ではなく,時間経過とともに自然に改善する可能性がある.
Eur J Neurol. Dec 16, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15215)
◆感染後の嗅覚・味覚障害に関わる遺伝子が同定された.
DNAテストのパイオニア米国23andMe社が,顧客6万9841人(女性63%,男性37%)からCOVID-19に伴う嗅覚・味覚障害に関する自己申告データを収集した.感染者の約3分の2が嗅覚・味覚障害を報告した.嗅覚・味覚障害の有無で,ヨーロッパ系,ラテン系,アフリカ系,東アジア系,南アジア系の人々を対象としたゲノムワイド関連研究(GWAS)を行った.この結果,UGT2A1とUGT2A2という2つの遺伝子の近傍に位置する一連のバリアントが,感染後に嗅覚・味覚障害を発症する確率を11%増加させることを見出した.図2はUGT2A1/UGT2A2遺伝子座の周辺をプロットしたもので,色はインデックスSNP(rs7688383)に対する連鎖不平衡の強さ(r2)を示している.これらの遺伝子はいずれも嗅覚上皮で発現しており,嗅覚に関与する受容体に結合する匂い物質の除去に関わる酵素(ウリジン二リン酸の糖転移酵素ファミリーの一員)をコードしていた.これらが嗅覚・味覚障害に関わるメカニズムは不明だが,その局在と,匂い物質の代謝および除去に必須の機能を考慮すると,病態に関与する可能性が高い.また嗅覚・味覚障害は女性や若い人に生じ易く,東アジア人やアフリカ系アメリカ人の祖先を持つ人は,ヨーロッパ人の祖先を持つ人に比べて有意に低かった(オッズ比=0.8および0.88).
Nat Genet. Jan 17, 2022.(doi.org/10.1038/s41588-021-00986-w)
◆COVID-19ワクチン接種における偽薬群での有害事象(ノセボ反応)はかなり多い.
偽薬使用後の有害事象は臨床試験においてしばしば認められる.今回,COVID-19ワクチン接種におけるノセボ反応に関するシステマティックレビュー,メタ解析が報告された.16歳以上の成人を対象としたランダム化比較試験で,接種後7日以内の有害事象を評価した.結果として,4万5380 名(うち偽薬接種者が2万2578 名)が対象となる12 件の有害事象報告書を解析した.初回接種後,偽薬接種者の35.2%が全身性有害事象を経験した(図3).頭痛(19.3%)と疲労(16.7%)が最も多かった.2回目の接種後,偽薬接種者の31.8%が全身性有害事象を経験した.ワクチン群で,有意に多くの有害事象が認められたが,偽薬群での有害事象(ノセボ反応)は,ワクチン初回接種後の全身性有害事象の76%,2回目接種後の52%に相当した.以上より,COVID-19ワクチン臨床試験での偽薬群で報告された有害事象の割合はかなりの高率であった.この知見を公的なワクチン接種プログラムにおいて考慮する必要がある.
JAMA Netw Open. 2022;5(1):e2143955.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.43955)