新年,明けましておめでとうございます.
New England Journal of Medicine誌 Journal Watchが,神経内科学分野の,2015年の10大成果を発表しました.以下,10論文の要旨とリンクをまとめます.本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます!
1.次世代の血栓回収ステントによる血管内療法の効果を示したMR CLEAN試験
Berkhemer OA et al. A randomized trial of intraarterial treatment for acute ischemic stroke. N Engl J Med2014 Dec 17; [e-pub ahead of print].
・・・内頸動脈系の近位部閉塞が確認された発症後6時間以内の虚血性脳卒中患者では,次世代の血栓回収ステントを用いて機械的血栓除去術を行ったほうが通常治療のみよりも3か月後の転帰良好例が有意に増加した.
2.パーキンソン病の症状は診断の10年前から出現していることを示唆した試験
Schrag A et al. Prediagnostic presentations of Parkinson's disease in primary care: A case-control study. Lancet Neurol 2015 Jan; 14:57.
・・・イギリスからの報告で,8166名のパーキンソン病患者さんが,診断される2,5,10年前に,健常者と比較してどのような症状を呈していたかを調べた論文.発症5-10年前では振戦と便秘,2-5年前でも振戦,バランス障害,便秘,低血圧,勃起障害,排尿障害,めまい,疲労,うつ,不安が健常者と比べ有意に多かった.
3.治療抵抗性てんかんの外科手術施行の障壁を明らかにした研究
Roberts JI et al. Neurologists' knowledge of and attitudes toward epilepsy surgery: A national survey.Neurology 2015 Jan 13; 84:159.
・・・抗てんかん薬による内服治療に抵抗性であるてんかんに対し,外科手術は有効で安全であるにもかかわらず,その一部にしか行われていない理由をカナダの神経内科医にアンケートし,明らかにした研究.回答をした神経内科医の半数しか「治療抵抗性てんかんの定義」や「外科手術をどのような症例に,いつ行うか」を理解していなかった.2000年以降に卒業した医師は正しく理解している比率が高くなった.
4.Neuropathic Pain(神経障害性疼痛)の治療に関するメタ解析
Finnerup NB et al. Pharmacotherapy for neuropathic pain in adults: A systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol 2015 Feb; 14:162.
システマティック・レビューとメタ解析の結果,第一選択は三環系抗うつ薬,SNRI,プレガバリン,ガバペンチンとした.第2選択としてリドカイン・パッチ(エビデンス不足で,第一選択から外れる),高濃度カプサイシン,トラマドール,第3選択(副作用があるため)として強オピオイド,ボツリヌス毒素とした.
5.片頭痛に対する急性期治療の有効性と慢性化の頻度の関係を明らかにした研究
Lipton RB et al. Ineffective acute treatment of episodic migraine is associated with new-onset chronic migraine. Neurology 2015 Jan 21; [e-pub].
・・・アメリカからの報告で,急性期の片頭痛治療の効果(4段階に分類)と,1年後の片頭痛慢性化の関係を調べた研究.この結果,急性期の治療効果が悪い症例ほど,慢性化の頻度が高いことが分かった.maximum, moderate, poor, very poorと治療効果が不良であるほど,1年後の慢性化率は1.9%, 2.7%, 4.4%, 6.8%と高くなり,かつ片頭痛の頻度の増加と身体障害の増悪をもたらした.
6.筋萎縮性側索硬化症の血液バイオマーカー
Lu C-H et al. Neurofilament light chain: A prognostic biomarker in amyotrophic lateral sclerosis.Neurology 2015 May 1; [e-pub].
・・・167名のALS患者さんと健常対照者における血液・髄液ニューロフィラメント軽鎖を,経時的に検討した研究.以下の3つのことが明らかにした.1)ALS患者さんでは健常者と比較して高値で,髄液と血中で相関があること,2)15ヶ月間の観察で,上昇が持続したこと,3)高値例ほど,機能予後,生命予後が不良であること.
7.てんかん重積発作とそれに関連した死亡を検討した研究
Betjemann JP et al. Trends in status epilepticus–related hospitalizations and mortality: Redefined in US practice over time. JAMA Neurol 2015 Jun 1; 72:650.
脳卒中後のてんかん重積発作は致命的な神経症状である.てんかん重積発作による入院と死亡率の経年変化(1999年~2010年)を調べた.この結果,てんかん重積発作による入院は10万人につき8.9 から13.9人・年と56%の増加がみられたが,これに伴う死亡は100万人につき1.8 から1.9人・年と6%の増加にとどまった.
8.多発性硬化症再発に対する経口対静注ステロイドの効果を比較した研究
Le Page E et al. Oral versus intravenous high-dose methylprednisolone for treatment of relapses in patients with multiple sclerosis (COPOUSEP): A randomised, controlled, double-blind, non-inferiority trial. Lancet 2015 Jun 28; [e-pub].
Oral vs. Intravenous High-Dose Glucocorticoids for MS Relapses: Your Choice
・・・199名の多発性硬化症患者が参加した,メチルプレドニゾロン1000mg,3日間を,経口ないし静注で投与し,その効果を比較した非劣性試験(多施設盲検試験).この結果,28日後のEDSS改善を主要評価項目とする効果の同等性が証明された.副作用についても差はなかった.
9.非破裂脳動脈瘤の治療介入決定スコアの開発
Etminan N et al. The unruptured intracranial aneurysm treatment score: A multidisciplinary consensus.Neurology 2015 Sep 8; 85:881.
・・・非破裂脳動脈瘤の治療介入の決定に有用なスコアシステムの開発.治療介入に関わる特徴(年齢,危険因子,推定余命,併存疾患),画像所見(サイズ,部位,形状,個数)など29項目を用いて,unruptured intracranial aneurysm treatment score (UIATS)を開発した.
10.多系統萎縮症はプリオン病か?
Prusiner SB et al. Evidence for α-synuclein prions causing multiple system atrophy in humans with parkinsonism. Proc Natl Acad Sci U S A 2015 Sep 22; 112:E5308.
・・・近年,シヌクレイノパチーやタウオパチーでは,プリオン様の伝播が神経変性の機序として注目されている.MSA患者脳のホモジネートを,マウスや培養細胞へ接種したところ,αシヌクレイン凝集体が形成されたが,パーキンソン病脳や対照脳のホモジネートではこのような変化は見られなかった.マウスでは神経症状も出現した.MSAのαシヌクレインは,パーキンソン病におけるαシヌクレインとは異なるものと結論づけている.
Neurology Editors' Choice: Top Stories of 2015
New England Journal of Medicine誌 Journal Watchが,神経内科学分野の,2015年の10大成果を発表しました.以下,10論文の要旨とリンクをまとめます.本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます!
1.次世代の血栓回収ステントによる血管内療法の効果を示したMR CLEAN試験
Berkhemer OA et al. A randomized trial of intraarterial treatment for acute ischemic stroke. N Engl J Med2014 Dec 17; [e-pub ahead of print].
・・・内頸動脈系の近位部閉塞が確認された発症後6時間以内の虚血性脳卒中患者では,次世代の血栓回収ステントを用いて機械的血栓除去術を行ったほうが通常治療のみよりも3か月後の転帰良好例が有意に増加した.
2.パーキンソン病の症状は診断の10年前から出現していることを示唆した試験
Schrag A et al. Prediagnostic presentations of Parkinson's disease in primary care: A case-control study. Lancet Neurol 2015 Jan; 14:57.
・・・イギリスからの報告で,8166名のパーキンソン病患者さんが,診断される2,5,10年前に,健常者と比較してどのような症状を呈していたかを調べた論文.発症5-10年前では振戦と便秘,2-5年前でも振戦,バランス障害,便秘,低血圧,勃起障害,排尿障害,めまい,疲労,うつ,不安が健常者と比べ有意に多かった.
3.治療抵抗性てんかんの外科手術施行の障壁を明らかにした研究
Roberts JI et al. Neurologists' knowledge of and attitudes toward epilepsy surgery: A national survey.Neurology 2015 Jan 13; 84:159.
・・・抗てんかん薬による内服治療に抵抗性であるてんかんに対し,外科手術は有効で安全であるにもかかわらず,その一部にしか行われていない理由をカナダの神経内科医にアンケートし,明らかにした研究.回答をした神経内科医の半数しか「治療抵抗性てんかんの定義」や「外科手術をどのような症例に,いつ行うか」を理解していなかった.2000年以降に卒業した医師は正しく理解している比率が高くなった.
4.Neuropathic Pain(神経障害性疼痛)の治療に関するメタ解析
Finnerup NB et al. Pharmacotherapy for neuropathic pain in adults: A systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol 2015 Feb; 14:162.
システマティック・レビューとメタ解析の結果,第一選択は三環系抗うつ薬,SNRI,プレガバリン,ガバペンチンとした.第2選択としてリドカイン・パッチ(エビデンス不足で,第一選択から外れる),高濃度カプサイシン,トラマドール,第3選択(副作用があるため)として強オピオイド,ボツリヌス毒素とした.
5.片頭痛に対する急性期治療の有効性と慢性化の頻度の関係を明らかにした研究
Lipton RB et al. Ineffective acute treatment of episodic migraine is associated with new-onset chronic migraine. Neurology 2015 Jan 21; [e-pub].
・・・アメリカからの報告で,急性期の片頭痛治療の効果(4段階に分類)と,1年後の片頭痛慢性化の関係を調べた研究.この結果,急性期の治療効果が悪い症例ほど,慢性化の頻度が高いことが分かった.maximum, moderate, poor, very poorと治療効果が不良であるほど,1年後の慢性化率は1.9%, 2.7%, 4.4%, 6.8%と高くなり,かつ片頭痛の頻度の増加と身体障害の増悪をもたらした.
6.筋萎縮性側索硬化症の血液バイオマーカー
Lu C-H et al. Neurofilament light chain: A prognostic biomarker in amyotrophic lateral sclerosis.Neurology 2015 May 1; [e-pub].
・・・167名のALS患者さんと健常対照者における血液・髄液ニューロフィラメント軽鎖を,経時的に検討した研究.以下の3つのことが明らかにした.1)ALS患者さんでは健常者と比較して高値で,髄液と血中で相関があること,2)15ヶ月間の観察で,上昇が持続したこと,3)高値例ほど,機能予後,生命予後が不良であること.
7.てんかん重積発作とそれに関連した死亡を検討した研究
Betjemann JP et al. Trends in status epilepticus–related hospitalizations and mortality: Redefined in US practice over time. JAMA Neurol 2015 Jun 1; 72:650.
脳卒中後のてんかん重積発作は致命的な神経症状である.てんかん重積発作による入院と死亡率の経年変化(1999年~2010年)を調べた.この結果,てんかん重積発作による入院は10万人につき8.9 から13.9人・年と56%の増加がみられたが,これに伴う死亡は100万人につき1.8 から1.9人・年と6%の増加にとどまった.
8.多発性硬化症再発に対する経口対静注ステロイドの効果を比較した研究
Le Page E et al. Oral versus intravenous high-dose methylprednisolone for treatment of relapses in patients with multiple sclerosis (COPOUSEP): A randomised, controlled, double-blind, non-inferiority trial. Lancet 2015 Jun 28; [e-pub].
Oral vs. Intravenous High-Dose Glucocorticoids for MS Relapses: Your Choice
・・・199名の多発性硬化症患者が参加した,メチルプレドニゾロン1000mg,3日間を,経口ないし静注で投与し,その効果を比較した非劣性試験(多施設盲検試験).この結果,28日後のEDSS改善を主要評価項目とする効果の同等性が証明された.副作用についても差はなかった.
9.非破裂脳動脈瘤の治療介入決定スコアの開発
Etminan N et al. The unruptured intracranial aneurysm treatment score: A multidisciplinary consensus.Neurology 2015 Sep 8; 85:881.
・・・非破裂脳動脈瘤の治療介入の決定に有用なスコアシステムの開発.治療介入に関わる特徴(年齢,危険因子,推定余命,併存疾患),画像所見(サイズ,部位,形状,個数)など29項目を用いて,unruptured intracranial aneurysm treatment score (UIATS)を開発した.
10.多系統萎縮症はプリオン病か?
Prusiner SB et al. Evidence for α-synuclein prions causing multiple system atrophy in humans with parkinsonism. Proc Natl Acad Sci U S A 2015 Sep 22; 112:E5308.
・・・近年,シヌクレイノパチーやタウオパチーでは,プリオン様の伝播が神経変性の機序として注目されている.MSA患者脳のホモジネートを,マウスや培養細胞へ接種したところ,αシヌクレイン凝集体が形成されたが,パーキンソン病脳や対照脳のホモジネートではこのような変化は見られなかった.マウスでは神経症状も出現した.MSAのαシヌクレインは,パーキンソン病におけるαシヌクレインとは異なるものと結論づけている.
Neurology Editors' Choice: Top Stories of 2015