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レッスンの事、日々の出来事などいろいろと…。

読後感…♪

2015-10-10 09:29:26 | Weblog
葉室麟著 『春風伝』
読み終わりました。
この文庫を手に取ってよかったと思います。
『春風伝』、すなわち高杉春風暢夫の一代記ということですが…。
晋作をはじめ松陰門下生が松陰の墓碑を立てるシーンがあります。
そこで同志の一人がいうのです。
春風というのは穏やかそうで、高杉さんの名としては似つかわしくない、と。
それに玄瑞が応えます。
春には春疾風(はるはやて)というつむじ風が吹く。晋作はまさに春疾風のような男だ、と。
あぁ、なるほどねぇ、たしかに…と納得しました
藩の意向で江戸に出たのに勝手に脱藩しちゃうし、上海でも一暴れも二暴れもするし、京へ行ったり長崎へ行ったり江戸へ行ったり、またまた脱藩したり…、まさに神出鬼没、疾風迅雷。
ただ暴れまわっているだけでなく、暴れながらしっかり見て見抜き、考えている。
そして晋作自身の才能もさることながら、周りの人にも恵まれていた。
その筆頭が周布政之助。
逸る晋作を抑えるために十年間暇をやるという。つまり藩政には関わるなと。
晋作のことを
「藩の存亡がかかった瀬戸際に抜く伝家の宝刀」
としてとっておく、というのだ。
藩内の勢力争いなどに巻き込まれて命を落さぬようにという配慮である。
ただこの伝家の宝刀はもろ刃の剣にもなりかねない危険な力を秘めている。
それが高杉晋作という男だ。
西郷と出会い、坂本竜馬と出会い、疾風怒濤の如くに動き、戦い、勝ち、また勝つ。
そして幕長戦争に勝利してのち、まるで燃え尽きるように死を迎える。
その最後の時は穏やかだ。
まさか畳の上で死ぬことになろうとは本人も思っていなかったかもしれないが。
「わたしは魁でしたから、先に行かせてもらいます」
明治維新という回天のときを引き寄せるためだけに、それに要する時間だけを生命として天から与えられたような人生だ。
享年27歳8か月。
若すぎる死だが、その周辺に悲愁や無念の陰はない。
おもしろきこともなき世をおもしろく
十分に生きたと、満ち足りた人生だったと、そう思えたのだろう。
春疾風は最後に穏やかな春風となって天に帰っていった。

追記
辞世は
おもしろきこともなき世をおもしろく 住みなすものは心なりけり
と伝わっている。
でも、下の句は野村望東尼が付けたものです。
だから晋作の本当の辞世は上の句のみと私は考えています。
上の句だけで晋作の思いは完結しているように思えるからです。
三十一文字の体裁を整えるために望東尼があえて下の句を付けたような気がします。




コメント
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