■ 科学の視覚化 ■
SF映画やSFアニメというジャンルは「科学のおとぎ話」ですが、
細かな科学的描写を丁寧に積み上げる事で
あたかも物語世界が現実に存在するかの様な錯覚を起させます。
しょせんは「ニセモノ」なのですが、それを「ホンモノ」に見せる「工夫」が
作品を名作にもすれば、駄作にもします。
スターウォーズが何故あれ程のヒットになったかと言えば
やはり1作目の視覚的衝撃が桁外れだったからでしょう。
(上の画像は別の意味で笑撃的ですが・・・)
以来SF映画も、SFアニメも様々な「映像」を生み出して来ましたが、
昨今の日本のアニメのSF描写で衝撃を受ける事はほとんどありません。
「センスオブワンダー」が宿った映像を眼にする機会がめっきり少なくなりました。
そんな最近のアニメ製作者達に、「SFアニメとはかく在るべき」とばかりに
素晴らしい映像の数々を見せ付けるのが、
今期アニメのダークホースでありながら、
今やオールドアニメファンの心をガッチリ掴んだ「モーレツ・宇宙海賊」です。
「荒唐無稽とリアルのバランス・・新しいけど懐かしい「モーレツ宇宙海賊」
http://green.ap.teacup.com/pekepon/668.html
■ 女子高生で宇宙海賊船の船長?! ■
ここからはネタバレ全開、オタクモードで突っ走ります。
加藤茉莉香(マリカ)は白凰女学院高校のヨット部1年生です。
彼女の父の職業は「海賊船弁天丸の船長」。
弁天丸は政府から「私略船免状」なる免許を交付された
れっきとした公認の海賊船。
そして、海賊船船長は世襲制と決まっています。
そんな自分の立場など一切しらされず、
あまつさえ、父が海賊船船長である事すら知らない茉莉香が
父が急死で海賊船「弁天丸」の船長にならざるを得なくなります。
・・・今時こんな子供の絵本に様な設定は滅多に出会えません・・・。
その海賊行為たるや・・・宇宙客船に乗り込んで客の金品を奪い取るというもの。
まさに海賊らしい「略奪行為」ですが、何故だか乗客達は大喜び。
客船のクルー達も、海賊の登場を今や遅しと待ちわびています。
何と、奪われた金品は保険会社が補償してくれるのです。
ですから乗客たちはテーマパークのアトラクションを楽しむノリで、
海賊達の出現に胸を躍らせます。
この妙に秩序と馴れ合った海賊達のお仕事は、
しかし全てがヤラセという訳では無く、
「表に出せない物」を密輸したり、
「表に出せない作戦」を遂行したりして、国家の影の部分も担う存在です。
そして、組織としては一応「軍」に所属しており、
戦闘となれば、本気の戦闘を繰り広げます。
味方の軍と放火を交える事もあり、それはそれなりに軍の訓練にもなっているのです。
これだけ書けば全くもって子供騙しの様な内容に思えますが、
細かな科学的ディテールを積み上げる事で、
手に汗を握るSFスペクタクルに変容するのですから、
もうSFオタクにはたまらない喜を味わう事になるます。
正にSFの教則本の様な内容です。
■ 序盤の山場は電子戦 ■
船体を取り囲む光は「凹面鏡の虚像」、こんな科学的な映像はアニメで見た事が無い・・。
序盤は女子高のヨット部の練習航海に謎の宇宙船が攻撃してくるという設定。
丸腰の練習船と女子高生達が攻撃にどう対処するのか、時系列で追ってみます。
1) ドック停泊中にハッキングを受ける
2) 危険性の低いハッキングに迎撃を開始
3) 電子戦システムでハッキング元を逆ハッキングを試みる
4) ドックからの外部電源のブレーカが過負荷で落ちる
ここまでは電子戦の説明的内容でした
5) 練習戦の定時連絡に通信妨害を受けた形跡を発見
6) 周囲の船の認識コードに不審船らしきものは見当たらない
7) 砲撃管制用の高周波レーダーを全天スキャン
8) スキャン結果、戦艦クラスの船影を補足
9) 2回目、3回目のスキャンでは補足されない
10) 「幽霊船」の正体は多分敵と判断する
12) ヨット部員達が先生に内緒で敵に対抗する事を決める
ここからが実線
13) 敵が攻撃してくるタイミングを練習船が惑星の影に入った所と想定
14) 敵の位置をレーダーの死角となる太陽の方角と想定
15) 敵のハッキングに備えて、練習船のメインシステムのコピーを作成
敵が案の定、練習船にハッキングを開始します
16) 船内カメラにダミー映像を流して敵を欺く
17) 敵がシステムをハッキングしている間に敵のメインシステムをハッキング
18) 敵からの連絡「貴艦のコントロールを掌握した、降伏されたし」
・・・女子高生艦長の返信は「バカめ」・・・沖田艦長ですか!!
さあ、女子高生ヨット部の反撃開始です
なつかしの「宇宙戦艦ヤマト」。「バカめ」で狂喜乱舞するのはオールドファン。
19) 敵のメインシステムに攻撃開始
20) 敵のコントロールを制圧。最低限の動力を残すのみとする。
すると、
21) 敵は自鑑のメインシステムをシャットダウン
・・敵は実戦に長けている様です。
22) 敵艦の砲撃が始まります。しかし光学照準では50万キロの砲撃は不正確
23) 丸腰の練習艦では応戦のしようがありません。
窮地に追い込まれて、主人公のマリカはひらめきます。
練習船オデット二世は、太陽風を利用して航行する宇宙帆船です。
24) 太陽反射パネルの照準を敵艦に定めます。
「迎撃出来なくても、敵の眼を一瞬でも潰せればいい」
ピカー!!
これはタマリマセン。光学照準のディテクターは確実に焼ききれます。
裸眼で覗いていれば、一瞬で失明です。
そこに駆けつける2隻の海賊船。
一隻はマリカの船。弁天丸。
そして一隻は、謎の黒髪メガネ転校生のチアキの船。海賊船バルバローサ。
そして、宇宙軍の艦船も駆けつけます。
イヤー!!渋い。そして痺れます。
何という地味な戦闘。
そして何と言う中身の濃い戦闘なのでしょう。
かつて様々な作品が宇宙での戦闘のリアリティーを追及してきました。
しかし、
砲撃に至るまでの心理戦、電子戦でコレほどまでに酔わせる作品はありません。
映画で言うならば、ナチスのUボート(潜水艦)とアメリカの駆逐艦戦いを描いた
「眼下の敵」に匹敵する緊張感です。
「眼下の敵」 1957年 20世紀FOX
本質的に「アニメなど子供騙し」なのですが、
この手の「ハッタリ」は大歓迎です。
■ 「黄金の幽霊船」探しと王家のお家騒動 ■
現在「弁天丸」は「さまよえる黄金の幽霊船探し」という、
いかにも海賊船らしい仕事に取り掛かっています。
セレニティー王家の第7皇女グリューエル・セレニティを、
とある理由で乗船させた弁天丸は、
王女の依頼で「さまよえる黄金の幽霊船」探しの真っ最中。
グリューエルはどうやら、セレニティーの後継争いに巻き込まれている模様。
「さまよえる黄金の幽霊船」がどうやら争いのカギを握っている様です。
「さまよえる黄金の幽霊船」とは超光速航行が実用化される以前、
セレニティーで建造された大型移民船です。
全長24Kmもあるこの大型船は、密閉循環型の環境と、
コールドスリープ装置を備えた、言わば眠れるスペースコロニーです。
こんな物が、何故か宇宙を彷徨っています。
それも、通常空間ではなく異空間を彷徨っているのかは真相は伏せられています。
グリューエルとその妹グリュンヒルデは「黄金の幽霊船」をめぐり敵対しています。
その理由が明らかになっていませんが、
弁天丸は単艦、セレニティーの艦隊と嵐の宇宙で戦闘する事になります。
1) 弁天丸は観測用のポットを多数射出
2) 敵艦隊やかつての調査隊の観測ポットも多数この宇域に存在
3) セネニティーの艦隊を弁天丸が補足
4) 空間の歪みを観測ポットが補足
ここまでは普通の展開
5) 弁天丸が超光速航行を敢行
6) ゴミの多い空間に遷移する為、反物質ミサイルを先行させ着地点を事前に掃除
ウワー、こんなゲイコマなアニメ今まで見た事がありません。
普通は、ゴミだらけの空間に遷移する宇宙船の映像に、
「出現空間に物質が存在すると危ないよ!」と視聴者がツッコミを入れるシーンです。
そして、この一連の複雑なSF的設定を、
「説明調」になる事無く緊張感のあるシーンの中にさらりと挿入しています。
「よくもまあ、こんな荒れた空間に降りられたなぁ~」
「無事じゃない、船体表面で極小規模だが融合爆発の反応が出ている。
船の中に食らってらただじゃ済まないぞー!!」
「先行させたミサイルの爆発が弁天丸のタッチダウンの地点と少しズレタ・・・
次は大丈夫だ、修正用のデータを取った」
セリフは「融合爆発」と「先行させたミサイル」としか言っていません。
そこから、超光速飛行に着地点を掃除する為に「反物質ミサイル」を先行させ、
反物質と通常物質の反応により、空間のゴミを消失させたのかと視聴者に推測させます。
・・・・こういう脚本、なかんか書けないですよね。
視聴者が「反物質」の概念を持っていなけばチンプンカンプンですが、
それを一々説明して、シーンのテンポを落とさない所が素晴らしい。
視聴者がもし疑問を感じたならば、視聴者はネットでいくらでも質問できる環境は整っています。
7) 敵に包囲される弁天丸
8) 敵護衛艦2隻の間を強硬突破
9) ビーム砲を広角斉射して、敵のレーダーを潰し追跡を妨害する作戦に出ます
10) 敵の追撃のビームを撹乱する為、ビーム撹乱材(アルミ箔みたいなもの)を
散布しながら弁天丸は逃走。
敵艦のビーム砲の追撃をビーム撹乱箔(チャフ)で拡散させて離脱
うーん、痺れます。
攻撃は一撃離脱。
さらに、装甲の厚い護衛艦の撃沈などは最初から狙わず、
敵の目であるレーダーや観測器を、広角ビームで焼く尽くす作戦。
とても女子高生船長とは思えない姑息でいた効果的な作戦です。
■ 空間を引き裂いて出現する「さまよる黄金の幽霊船」 ■
今週はいよいよ「黄金の幽霊船」の出現です。
弁天丸は空間の歪みを追跡しています。
それこそが、「黄金の幽霊船」なのです。
すると、巨大な重力波のリングが船体を揺さぶります。
次いで、巨大な空間の裂け間が現れます。
これは、さながら小型のブラックホールか超新星爆発です。
弁天丸は船首を衝撃波に向けます。
木の葉の様に翻弄されながら、それを乗り切った弁天丸の前に現れたのは
長さ24Kmにも及ぶ、巨大な「黄金お幽霊船」
・・・・うーん、ラピタだ。
幽霊船は「弁天丸」を収容すると、再び異空間に没して行きます。
セレニティー王家と「黄金の幽霊船」の謎が次週と明かされるのか!!!
一週間なんてとても待てそうにありません。
本日は「モウレツ宇宙海賊」を題材にして、
SF作品における「ディテール」の重要性について検証しようと思いましたが、
単なるオタクトークと成り果てました。失礼しました・・・・。
最後にお詫びでは無いですが、オマケ。
キャラクターデザインを担当した「アキマン」こと、
カプコンの天才絵師、安田朗の筆によるマリカとシュニッツァー。
痺れます。