『彼は語らない』
デスマスクのような面、しかし唇が赤い。(死んでいるが、生きている)
その背後には目を見開いた女と思える顔がある。
二つの顔の周囲の面は何を示唆しているのだろう。左には正確な間隔で打たれた点描があるが、これは概念(時間の認識)かもしれない。ただ、デスマスクの上の接線と顎から下の接線は垂直には結べない、差異がある。そしてこの点描の面は、デスマスクのすぐ背後なのか、ずっと奥まった空間なのかが判らない。
デスマスクと女の顔の間には円型の板条のものがある。パイプが突き刺さり、デスマスクの下で下へ垂直に折れている。これは点描の面より後ろにあるように見えるが、円型と見えるものがカットされている可能性も否定できない。
女の背後に見える木目状の面、青みがかった白い面は、必ずしも女の背後ではなく、女の形にカットされた面から、女がのぞき見えているとも考えられる。
二つの顔の周囲の面は見方によって前後する奇妙な位置関係にある。デスマスクの顔面が最も手前にあることだけは確実であって、背後の空間は不確定である。
描くということは確定を条件とするものであるにもかかわらず、動く面(空間)を内包している作品である。
デスマスク(彼)は霊界の存在かもしれないが、影があり、唇が赤い。存在していないが、存在しているらしい。そして背後から延びてきたパイプは、彼の所で下に曲っている。
パイプ=メッセージであれば、彼は語らないが、彼の存在は何かのメッセージを発し、背後の女(人々の集約)は眼を見開き凝視の体である。デスマスクには耳は有り得ないが、耳をつけ、女(人々の集約)の耳を覆い隠して描いているのはマグリットの皮肉のように思う。
彼(デスマスク≒神)は語らないが、点描に暗示する概念(時空)を征し、女(大衆)の眼を見開かせる啓示を有している。彼は人であり、人でないかもしれない。語ることなく点描の時空(概念)に亀裂を入れたやもしれない。(語らない以上真実は永遠の謎である)
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
「あれは、水の速さをはかる器械です。水も・・・・・。」鳥捕りが云ひかけたとき、
☆推しはかる側(かたわら)の記は、回(めぐる/元に戻る)。
推しはかり、調(ととのえる)運(めぐりあわせ)である。
これほど間違ったことはない。もちろん、そういうぼくだって、あんたとおなじで、これまでつい彼にまどわされて、彼に希望をかけたり、彼のために幻滅を味わわされたりしました。が、希望も幻滅も、彼の言葉にだけ基づいていたのだから、要するにほとんど根も葉もなかったわけです。
☆過ちを犯すはずがない。もちろん、わたしもまた彼にまどわされないようにし、分別のある希望を持ち、それを果たすことで迷いを覚ましました。しかしながら、それら両方とも、彼の言葉によるもので、ほとんど根拠がなかったのです。