『神々の怒り』
連山に並行して走る自動車と、その上を馬で疾走する騎手が、雲一つない清明な空を背景にして描かれている。
自動車の上を疾走する馬、問題の視点はここにある。静かな情景に見えるが、とんでもなく暴力的な時空である。
危険・事故・破損・死にいたる前景であり、時間をここで止めなくてはならないという危急が働く。
神という絶対的な効力をもってしても免れることの不可能な危機。神々のざわめきが聞こえる。
疾走する騎手が空を飛ぶなどという重力を無視した暴力的な行為は、神々の支配する自然の理(物理的状況)に対する反逆である。
現実と非現実の狭間で神々は奇想に審判を下す、奇想は人間の横暴であると。神々の怒りは聞こえないが、マグリットは皮肉を込めて苦笑いしている。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)