この作品を正面から見る限りにおいて、有(口から出入りするもの)と無(空白/空気)は《等価関係》にあるように見える。そういうリズムを感じる。
口から出入りする振動は生命(存在)の要であり、証明である。空間のなかの人間(生物)は、人間(生物)のなかの空間に等しい。
世界のなかのさざ波のような振動、揺れは生きて在ることの歌のように潜在している。精神的にも物理的にもその等価関係は保たれているのではないか。
《10×口》というのが整数の掛け算であれば決してゼロにはならず、無数、無限の数値を暗示しているが、口が単なる四角で、0あるいは負数が入る可能性を考えると、すこし恐い気がする。
口を見せて、口ではなく四角という伏線かもしれない。
個の集合が世界の空気を振動させている、生命と空間との神秘な関係性である。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館