「バカ!貴様に言ったのじゃないわ」
猫は驚惶てて厨房の方へ駈けて往って了った。柱時計がゆるやかに八時を打った。
☆目(観点)は化(教え導くこと)の記が要である。
現れるのは、平(平等)の教(神仏のおしえ)の講(話)である。
巡らせた謀(はかりごと)の法(神仏の教え)の句(言葉)は霊(死者の魂)の衷(心の中)を、字で継(つなぐ)也。
二つを拿(掴まえる)。
さすがの優秀な従僕も、ときには自制心を失ってしまう。彼は、車のところへ引き返し、書類のうえにどかりと腰をおろすと、額の汗をぬぐい、しばらくはなにもしないで、途方にくれて足をぶらぶらさせているだけである。
☆この特別な従僕たち(死人)もときには自制心を失い、自身の小さな秤(平等)を書類の上に置き、額の汗をぬぐい少しの間まったく何もしないで回り道に迷い途方に暮れていた。
重量のある不明な(説明の困難な)ものが、床面から浮上している。
この物は何か?信じがたいほど驚異のエネルギーを潜めている物体。
超現実の域であり、むしろ架空にさえ見える。
疑惑の対象…全容を把握することができない機密の含有。しかし、明らかに人(人類)の仕事(英知の結晶とも言える)であることは間違いない。
データの集積・成果・発見が人類を脅かすかもしれない未来の予感。
相手を攻撃するような武器を超越した兵器は、ボタン一つ、押したり引いたりの作動一つで世界を変え得る破壊の威力を孕んでいる。
この物はおとなしく静かで何ら攻撃力の欠片も持っていない(ように見える)。しかし、この重さを以て地上から離れている(浮いている)、この事実は想像に絶する威力(エネルギー)を予感させるものである。(もちろん作品にはそう見える仕掛けがあるのだけれど)
写真は『若林奮 飛葉と振動展』図録より 神奈川県立近代美術館
「六番さんのお浴湯がすんだら七番のお客さんをご案内申しな!」
膝の猫が喫驚して飛下りた。
☆録(書き記す)番(組み合わせ)を欲(求める)。
套(おおわれた)死地を半(二つに分けた一方)に書く。
語(言葉)で案(考え)代(他のものに換えるのは)新しい。
質(内容)は、平(平等)であり、吉(良いこと)である。
教(神仏のおしえ)の秘(奥深くてはかり知れない)化(教え導くこと)がある。
けれども、これでさえも、書類を返しほしいといくら頼んでも返事すらしてもらえない場合にくらべたら、まだしもましであった。こういうときは、閉ざされたドアのまえにつっ立ったまま、懇願したり、哀願したり、表を引合いにだしたり、法規を楯にとったりするのだが、どれも成功しない。部屋のなかは梨のつぶてである。許可なしに部屋にはいる権利は従僕にはないらしい。
☆けれども、死は比較的単純だった。従僕もまた返却を願ったが返事はなかった。閉ざされた企画の状態に、懇願したり表(リスト)を引き合いに出したりしたが、指令はすべて無益で、許可のないテーマ(主題)はあきらかに正当性を欠いていた。
1-4-2『LIVRE OBJET後からの試作Ⅰ』
何か非常に重い物体であるが、浮いている。つまり相当なエネルギーが潜んでいるということである。穴(空洞)のある角状(直方体)の物が規則正しく積み上げられている。
その上部に乗っている物は何だろう、書物(巻物)・・・人類の知恵、記録かもしれない。いくつか開けられた穴の数か所に金属製の紐(電線)が通してあり全体を包んでいるように見える。その背後にある引っぱる動作を示唆するものは何だろう。これを引くことで全体が崩れてしまうような予感不安を感じさせる。
人間の手による発動である。
大いなる不安の振動、この驚異のエネルギーを孕んだものの正体を、わたし達は知らずただ見つめ怯えるだけである。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館
主人はこれを知ているのかいないのか、じっと眼をふさいでいる。暫時すると、右の手が煙草箱の方へ動いてその太い指が煙草を丸めだした。
☆主に悟りの質(内容)を現す。
懺(くいる/罪の赦しを乞うこと)を治め、幽(死者の世界)を守る。
掩(隠した)想い、償いの法(手立て)を導く他意の詞(言葉)がある。
掩(隠した)想いを含んでいる。
ところが、こういうときは、書類を従僕には手渡さず、いきなり廊下の遠くへ投げすてるのである。そのために、とじ紐が緩み、書類がばらばらに四散してしまうので、従僕は、それを元どおりに整理するのにさんざん苦労しなくてはならない。
☆絶えず続くこれらの行動により、従僕には記録を渡さず、大きく方法を変えた。
突然束縛を逃れ、遠くへ飛び去る決意をするので、従僕は再び整理に疲労困憊してしまう。
1-4-3『LIVRE OBJET後からの試作Ⅲ』
機密・・・落下のイメージ、数本の紐で吊るされ落下を防ぐ措置が取られているお椀状のものは何だろう。落下傘…原子爆弾の落下を想起させる。
核分裂による巨大なエネルギー…残留放射能による影響を考えると想像を絶するものがある。
この作品はそれを示唆しているのではないか、直接的な具体性はないが、傘状の円形の物体はつぼんだものが開くという構造である。
言葉を消し具体性を消しているが、どうしてもそれを想起させる隠れた創意を感じる。
決して完璧には隠し果せない、どこかにズレが生じるのではないかという危惧。
核保有国アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国・・そしてインド、パキスタン、北朝鮮の恐怖…人間は人間の作った核の恐怖にどこまで怯え続けざるをえないのか。
原潜から端を発した問題提議、この胸に痛い振動の持続は大きなうねりとなって今日も止むことがない。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館
それぎりで客へは何の挨拶もしない、その後姿を見送りもしなかった。真黒な猫が厨房の方から来て、そッと主人の高い膝の上に這い上がって丸くなった。
☆覚(悟り)を化(教え導く)相(二つのものが互いに同じ関係にあること)を察(明らかにする)。
互いの詞(言葉)を兼ねている総(すべて)は。
新しいものを告げ、描いている。
巡(めぐる)謀(計画)の法(手立て/仏の道)の記である。
償いの赦(罪や過ちを許し)浄(きれいにする)願いである。