天空の恋~谷崎と猫と三人の女~:ピッコロ劇団第54回公演
江嵜企画代表・Ken
「天空の恋~谷崎と猫と三人の女~」、兵庫県立芸術文化センターで開かれたピッコロ劇団による公演を2月21日(日)午前11時から15分の休憩をはさんで2時間半を堪能した。
今回は、谷崎潤一郎歿後50年、生誕130年記念公演である。立錐の余地もない、というのはこの日の会場を指していうのだろう。熱烈な谷崎ファンでむせ返る雰囲気だった。ご婦人の姿が目立った。会場の様子をいつものようにスケッチした。
幕が開く前に舞台正面に白い布をかぶせた物体が見えた。「高木さーん、お熱はかりましょうか」と医師と共に舞台の袖から登場する看護師の声から劇は始まった。高木さんとは、谷崎の秘書として当時の谷崎の暮らしぶりをつぶさに観察したその人だと、ほどなくしてわかった。
高木さんは「語り部」として劇中にひとこま登場しては消える。消えては現れる。繰り返される谷崎の結婚・離婚騒動、谷崎の理想の女性、根津松子との出会い、それぞれの出会いが「春琴抄」になり「痴人の愛」になり「猫と庄蔵と二人の女」になり「細雪」にもなるいきさつがテンポよく展開された。
大正12年(1923)谷崎は箱根を訪れていたとき関東大震災が起こる。谷崎は関西に移る。阪神間に21年間過ごす。演題の「三人」とは、最初の妻・千代、千代は佐藤春夫に譲る。「細君譲渡事件」である。二年で離婚する二度目の妻、丁末子、三度めの結婚相手、根津松子である。
落語家、桂春蝶演じる谷崎と島田歌穂演じる松子との迫真の演技は見ごたえがあった。特に迫力があったシーンは、「あんさんの芸のためなら、おろします」と松子。「おうきに、おうきに」と土下座せんばかりに応じる谷崎のやりとりの場面だった。
インターミッションの時間にロビーで谷崎研究の第一人者、たつみ都志先生の姿もお見受けした。今回の劇を演出した演出家G2は情報サイト「あにあん倶楽部」のブログに「たつみ先生という強力なブレーンに恵まれた」と語っている。
幕間に隣の席に座られたさるご婦人が小生のスケッチをみつけて「見せたい人がいる。撮らせていただいてよろしいか」とリクエストを受けるハプニングもあった。当のご婦人は「これで5回見ました。今日が一番素晴らしかった」と絶賛された。
実は今回の観劇は、西宮文化協会「会報」1月号に投稿された同協会理事のMさんのご紹介のお陰である。またとない機会を頂戴したMさんにひたすら感謝である。(了)