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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「倉脇健人君」

2013-07-28 08:16:15 | ショートショート
 とある田舎町に、背が高く、日本人離れの顔立ちをした倉脇健人という子供がいた。
 いい体格をしているのでさぞ腕っぷしも強いのかと思ったらてんでひ弱で、自分よりはるかに小さな友達にも相撲で負けてしまう始末。
 勉強はよくできるのだがスポーツに関してはからっきしダメで、運動会の駆けっこでは幼稚園の頃からずーっとビリ。見た目カッコいい子供が徒競走で後ろの方を走っているというのは、見ている父兄にとってもバツの悪いものだった。
 素直で頭は良かったのですくすく成長し、地方のとある新聞社に記者として勤めることになる。そこそこの記事は書くものの、フットワークが悪いというのか少々鈍いところもあって、パッとしない平々凡々な毎日を送るのであった。

 もうお分かりかと思う。この青年、宇宙の彼方の〈惑星クリプトン〉が滅んだため、その直前に〈地球〉に向けて送り込まれた異星人なのである。
 ただ、軌道計算機が故障してしまったのか隕石で軌道がそれてしまったのか、はたまた次元がずれてしまったのか、〈スモールビル〉や〈メトロポリス〉のない、従って〈デイリー・プラネット社〉も〈レックス・ルーサー〉も存在しないこの地球、しかも日本に不時着してしまった。
 広い田んぼのど真ん中に落ちたその宇宙カプセルを見つけたのが、地元でリアカーを引いていた倉脇夫妻。カプセルから出てきた男の子に「健人(けんと)」と名付け、大事に大事に育てたという。

 本来なら〈スーパーマン〉として華々しい活躍をするところだったのだが、悲しいかな太陽、つまり光の成分が違うため、あれほどのパワーとスピードを身につけることはできなかったのである。
 かくして健人くん、疲れた仕事帰りに星空のある方向を見つめながら、「自分の人生、何か違うんじゃないかなあ」とため息をつくばかり…。


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