思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

科学的思考を阻む小学校教科書?立花隆著「人類よ、宇宙人になれ」

2008-11-11 | 教育

 前々から困った教材だな、と思っているのですが、「論説文」と銘打たれて、小学校6年生の国語教科書(教育出版社)㊦に「人類よ、宇宙人になれ」が載っています。

 これは、天文学の基礎知識に乏しい立花隆さんが、「事件」のレポートでも書くようなレベルで書き下ろした文章ですが、付け焼刃のような表層的な知識に立花さん自身が振り回されていて、主張内容にまったく説得力がありません。

 こういう言葉だけの知識に基づく「論説」は、小学生の子どもたちに、科学の面白さ、論理的明晰性のもつエロースを知らしめることができないばかりか、科学への興味や論理的思考を奪ってしまいます。

 著者の立花さんは、人類が、宇宙両生類(地球を離れてもまたすぐに戻ってくる)になるのではなく、進化のとるべき道は、人類が地球外に出て宇宙人になることである、と結論しています。

 その理由は、大事故に備えて地球以外にもう一つの「宇宙船」を建造しておく必要があるから、というものです。まず「火星」を改造して人間が住めるようにし、さらに、遠い将来には太陽の死を免れることはできないから、「銀河系全体」へ、更には「銀河系外の星雲(島宇宙)」へと進出していく必要がある。そのためには今から宇宙開発を進め、資金を投じ、多くの資源と人材を注ぎ込んでいかなければならない、というのです。


 まず、ここで言われている太陽の死ですが、太陽系誕生から46億年、それを46cmのグラフで表せば、猿人からの全人類史は300万年、わずか0.3mmで、シャープペンシルの芯の太さにも満たないのです。太陽の死(同時に太陽系の死)までは後50億年。こういう時間スケールの極端な違いについてイメージできるように書かなければ、読む子どものイマジネーションはひどく歪んでしまいます。

 また、わずかな太陽エネルギーの変化が地球上の生物に致命的な打撃を与えるという「事実」から、火星をもう一つの地球に改造すべきだという結論は、荒唐無稽というほかありません。微妙なバランスの上にかろうじて成り立っている地球環境の維持が不可能であるときに、火星(表面積は地球の4分の1、気圧は150分の1)をその地球以上に安定したバランスにもたらすという主張は、論理を超越したオカルトのような話です。

 また、銀河系宇宙全体への進出、とは言っても、そのスケールについては一言も触れられていません。渦巻状の星・星間物質の集まりである銀河系の直径は約10万光年(95×10の16乗キロメートル)で、太陽系の一番外側を回る海王星の公転軌道の直径は約90億キロメートル、一億倍の違いがあります。地球から太陽までの距離を30倍した海王星までの距離をさらに一億倍しないとならないのです。

 このような桁違いの空間スケールについても全く触れずに、「進出していく」ために、今から多くの資金・資材・人材を投じる必要があるという主張には、絶句!です。

 まだまだ言えばキリがないのですが、このような主張を読んで、科学に興味がわき、論理的思考が育つなら奇跡でしょう。「反面教師」にしかなりません。
 わたしは、科学への関心を育て、論理的な思考力を養うのは、よい教育の基本だと確信しています。教科書会社の奮闘を期待します。



武田康弘

コメント
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