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雪国生れの人々は気候のために故郷を呪ひがちであつた。いつもいつも灰色の空。太陽は生命と希望の象徴であるが、象徴を失ふことが現実に希望と生命を去勢する無力さを、彼等は知らねばならなかつた。ためらひや要心や気憶れや、人間関係の弱さだけで沢山だつた。そのうへまるで植物のやうに自然界の弱さまで思ひ知らねばならないのだ。雪国の叡智を育てるものは疑ひ深い要心と抜け道のないためらひだつた。味方すら信じきれない細心と孤立者の諦らめが、彼等に「知らねばならぬ」ことを教へるのだ。そして彼等は知り得ることを知るのであつた。然し知識が宿命的に知り得ぬことがあつたのだ。本能がそれであつた。
――坂口安吾「母を殺した少年」
最近、やはり人間の弱さについて考えることが多くなった。どいつもこいつも弱っちいやつらばっかりになってきているからである。最近のほとんどのトラブルが弱さからくる言い訳や逃避が原因だ。「ためらひや要心や気憶れや、人間関係の弱さだけで沢山だつた」という気分はよく分かる。安吾も、どうしたらよいのかよく分からなかったと思うが……。