★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

男の人生

2018-06-12 23:30:10 | ニュース


トランプと金正恩の握手を見ていて、政治のことはどうも――将棋が苦手なわたくしなど、先の一手というのが読めず、――日本人にはこういうぼーっとしたわたくしみたいなのが多いと思うのであるが、演歌の世界を思い出した。例えば杉良太郎の「男の人生」では、「歩いた道に悔いはない」とかゆうて、最後にはこうある。

過去をほじくりゃ きりがない
俺とあいつの 生きざまを
笑ったやつも いたけれど
俺はうしろを 見たくない

見ろよ、と思う。ちゃんと後悔しなきゃだめだ。北島三郎の「男の人生」でも、

花の咲く道 茨の道も
人はそれぞれ 運命を歩く
義理を背負って 真実を抱いて
奥歯かみしめ 生きてきた

その「真実(まこと)」とやらを、400字以内で答えよ、としか言いようがない。また山川哲の「男の道」では

男度胸は この世の定め(←違います)
山があれば 谷もある(平野もあるよね……)

といった感じで、もう少し頭の良い屈撓性のある男の人生もありそうなものである。が、三文オペラのフィナーレを聞いていると、上の男達は結局、精神において小市民であったという感じがする。上の男達には、このオペラの結局は嘘であったところの結末で、マクヒィスがいう「ああ、分かっていたのさ。困難が極まれば、自ずと道は開けるもんだってな。」というせりふを思い出させる。しかし本当は男マクヒィスは助からない。で、かわりに貧者達のコラールが響き渡る。

Verfolgt das Unrecht nicht zu sehr, in Bälde
Erfriert es schon von selbst, denn es ist kalt.
Bedenkt das Dunkel und die große Kälte
In diesem Tale, das von Jammer schallt.

すこしのワルさなんかは大目に見ろよ、だってすぐに
この世界はすごく寒く、ワルさは凍りついてしまうんだからさ
この漆黒と極寒について考えてくれよ
この世界の谷間で、嘆きの声が響き渡っているのが聞こえないのか。

われわれは、ちょっと食えるようになったからといって、自分の少しのワルさと世の寒さと嘆きを忘れてしまっているようだ。ブレヒトが言うように、われわれのワルさが大目に見られていたのは、われわれが寒さに震えていたからであった。しかし、いまや暖かい部屋に育った子犬の戯言など、世界ではあまり聞いてくれないのであった。男の人生どころか、人間の人生が問題だ。ところが、テレビに写っているところの――金やトランプは、案外「男の人生」的な人間にみえるところが面白い。


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