日本の農薬の使用基準が農薬メーカーに甘く、EUで禁止・規制された
ネオニコ系農薬が、日本ではいまだに多用されていることは「常識」として
知っている。
従って、一部の人から誹謗中傷を受けながらも極力農薬を使わずに
「安心安全で美味しい米や野菜」の生産に努力しているつもりでいる。
しかし、「国が農薬を再評価する際、農薬メーカーがつくる報告書と文献
リストに依存している」ことや「ネオニコ系農薬の一つ、アセタミプリドの
基準値を日・EUで単純に比較すると、ブドウで日本はEUの10倍、茶葉で
600倍」にもなることを知って驚いた。
お茶は食事や一服の時間に毎日飲み、葡萄も秋のシーズンによく食べ、
孫達に送ったりもしている。
残り少ない人生の老人にとっては「今さら騒いでも・・・」かもしれないが、
「孫達の健康に差し障りがあるのでは」と心配になって来る。
(2023.3.30 AM11;00 )
毎日新聞「風知草」山田孝男(2023.3.27)
「由々しき日本の残留農薬」
自民党が何かと敵視するTBSが、国産食品の残留農薬を問うドキュメンタリー
映画を作った。
映画だから放送法の対象外。安保や歴史ではないから<保守派>の介入はある
まいが、農薬メーカーの反発はあるだろう。
日本の残留農薬の規制は欧州連合(EU)に比べてはるかに甘い。映画はそこを
掘り下げる。<環境過激派>的な偏向はない。ちまたの疑問に答える常識的で公平
な編集である。
映画のタイトルは「サステナ・ファーム」。環境に優しい(sustainable)農園で
ある。監督はTBSテレビ報道局の川上敬二郎ディレクター(49)。川上自らリポー
ター・語り手として出演している。
主題は化学農薬、化学肥料、有機農業。全編69分の相当部分が<ネオニコチノイ
ド>系の農薬に費やされる。米、野菜、果物の生産で使われ、ミツバチ大量死や、
トキ、コウノトリなど絶滅危惧種の生態系に悪影響を与える一因――と疑われてい
る物質である。
EUでは禁止・規制されたネオニコ系農薬が、日本ではいまだに多用されている
のはなぜか?
カギを握るのは木村-黒田純子・環境脳神経科学情報センター副代表(医学博士
の論文である。
2012年、この人は国際的な科学雑誌「プロスワン」に、ネオニコ系農薬が人を
含む哺乳類の発達期の脳に悪影響を及ぼす可能性を示す論文を発表。EUが注目し、
予防原則(完全な証明がなくても環境への影響に配慮して規制する考え方)にのっ
とって規制を強化。日本は見送った。
農水省ホームページに残留農薬基準値の国際比較表が載っている。ネオニコ系農
薬の一つ、アセタミプリドの基準値を日・EUで単純に比較すれば、ブドウで日本は
EUの10倍、茶葉で600倍になる。
興味深いのはその先である。東京で初めて「サステナ・ファーム」が上映された
今月18日、映画に出ている木村-黒田が終映後に登壇し、あいさつした。
そこで木村-黒田は、国が農薬を再評価する際、農薬メーカーがつくる報告書と
文献リストに依存している――と指摘。この分野で名を知られ、映画にも登場する
星信彦神戸大教授の論文10編のうち6編が報告書から削られている――と具体的に
明かした。
木村-黒田のあいさつを聞いていた聴衆の中に奥原正明元農水事務次官(67
)がいた。安倍政権の農協改革の中心人物である。次官時代の18年、農薬取締法
を改正し、最新の科学的知見で農薬を再評価できるようにした。当然、木村―黒田
の証言に驚いた。
「由々しき問題だと思いました。制度を変えた意味がない。行政に自ら調べる
意がない。審議会、委員会の学者に資料を全部見てもらい、消費者も交え、リスク
コミュニケーションをキチンとやらなきゃ」
21年11月、川上はテレビの「報道特集」でネオニコを取り上げ、そのユーチュー
ブ動画に294万回のアクセスがあった。農薬工業会(メーカー34社)は「不正確」
と反発、研究者らが詳細に再反論した。論争は当然。フェアなコミュニケーション
が重要である。
公開は各都市2、3回ずつ。東京での公開は先週で終了。30日に大阪で。4月5日に
大阪と名古屋。4月中に札幌で上映する。手応えがよければ上映機会を増やすとい
う。(敬称略)=毎週月曜日に掲載