自民党は旧統一協会同様に原子力ムラともズブズブの関係にある。
福島原発事故後、原発への「依存度低減」を掲げ、「新増設や建て替えは想定
しない」として来たが、それは選挙対策用の建前に過ぎず「本音」で無かった。
従って、今回「原発回帰」が鮮明になる新たな方針を示しても特別に違和感を
覚えることは無かった。
逆に、安倍元総理の国葬問題や旧統一協会との関係で支持率が急落している
ことから「論点そらし」を始めたものと勘ぐっている。
しかし、原発新増設はそんな軽い扱いが出来る代物ではないことは明らかで
ある。
(今日も雨)
毎日新聞「風知草」(2022.8.29)
「原発新増設、浮上の経緯」=山田孝男
新しい資本主義には新しい原発が必要らしい。
24日、岸田文雄首相が政府の会議で「次世代革新炉の開発・建設について、年末
に結論が出せるよう検討の加速」を指示した。
「革新炉」という言葉は耳慣れないが、要するに新しい原発である。岸田政権が
「原発の新増設は想定しない」という従来の政策を転換――とメディアは伝え、世
間は驚いた。
首相側近によれば、首相指示の背景はロシアのウクライナ侵攻である。侵攻後の
3月、政府は経済産業省に専門家会議を設け、原発新増設の検討へ動いた。
その会議とは、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の中の原子力小
委員会の、そのまた下にある革新炉ワーキンググループ(WG)である。
原子力専攻の学者、日本原子力研究開発機構職員、経団連職員、みずほ銀行産業
調査部員ら11委員と、電気事業連合会(電力10社で構成)の原子力部長ら3専門委
員から成る。
脱原発側の委員は、民間シンクタンク「原子力資料情報室」の事務局長ただ1人。
司会進行は経産省の原子力政策課長。4月の初回会合には原発メーカーの三菱重工
業、東芝エネルギーシステムズ、日立製作所の幹部が参加した。
7月29日、4回目の会合で革新炉WGの中間報告が出た。首相はこれを念頭に先
週、官邸で開いた脱炭素社会移行の会議で「革新炉建設の検討」を指示。これが大
報道になった。
専門家会議の議事録、資料は「革新炉WG」でネット検索すれば読める。中間報
告「革新炉開発の技術ロードマップ」骨子案(全29ページ)を読んでみた。
委員の顔ぶれで察しがつくが、産業政策の関心から見た未来技術の評価が中心で
ある。核融合炉を含む五つのタイプの「革新炉」のうち、技術成熟度、経済性など
で最も評価が高いのが革新軽水炉だった。
経産省によれば、革新軽水炉とは、「新しい安全技術を盛り込んだ原発」のこ
と。新技術とは「原子炉格納容器の強靱(きょうじん)化」「非常用電源の多重
化」など――だと資料にある。
つまり報告は、大筋で既存メーカーによる既存原発の建て替えを推奨していると
読めるのだが、来し方を顧みれば、今日、メーカーと行政が言う<安全>を誰が信
じるか?――という問題にたどり着く。
「ウクライナで一変したんです。原発リスクより経済安保リスクが大きい」
電話の向こうで首相側近が言った。引っかかる。
原発リスクは依然、大きい。巨大災害は当分来ないと言えるか? ウクライナで
交戦下の原発の危険性があらわになった。日本海沿いに原発がズラリ建ち並ぶ日本
は大丈夫か?
核燃料サイクルは「ウラン濃縮↓発電↓使用済み核燃料再利用↓最終処分」のうち再
利用と最終処分のメドが立たないが、政治も経済も「できる」という幻想の上に成
り立っており、引くに引けない。核のゴミだけ蓄積して半世紀過ぎた。
つまり制御不能。事故炉も同じである。福島第1原発廃炉の絶望的な停滞は
「『廃炉』という幻想」(吉野実著、光文社新書、今年2月刊)に詳しい。
宇宙から見た地球の中でも日本の明るさは際立っている。リスクだらけの原発を
増やし、過度の照明と産業を守るという感覚は倒錯している。国家百年の計はそこ
にはない。(敬称略)(特別編集委員)=毎週月曜日に掲載