
『少年飛行兵の教官をしていた藤井中尉は、少年兵たちの戦死の報を聞く度に「お前たち
だけを死なせるわけにはいかん」と自らも特攻兵を志願した。
しかし中尉は年齢的にも若くは無く、既に結婚し、子供もいたことから当然のようにその
願いは却下された。ところが中尉の信念は固く、今度は血書を認め再び願い出るのである。
当初は出撃に反対していた妻は、夫の決意が余りにも固い事を知り、ある日幼い二人の
子供を道連れに、近くを流れる荒川に自ら身を投げる。
「これで後願の憂いも無く成りましょう・・お先に行って待っています・・」と言う遺書を残して。
こんな事があって特攻志願を受理された中尉は、特攻出撃も終わりが近づいたある日、
部下を率いて出撃華々しく南の海で散華、愛おしい妻子の待つ彼の世へと旅立って逝った。
妻子の死から13日後の事である。そして間も無く終戦を迎えようとしていた時期に・・。』


唱歌のBGMが低く流れる、静まり返った館内で涙が止まらなかった。
誰もが一様に掲げられたパネルの文字を追いながら、口元にハンカチを当て、指先で瞼
をぬぐっていた。息を呑むように、呻くように、呟くように、微かに囁き合う声と、鼻を啜る
音が聞こえるだけで、時折歩を進める足音だけがコツンコツンと、か弱げに響いていた。
余りにも悲しい現実に、誰もが心を奪われ、呆然とただパネルを見つめるのである。

”ホタル館 特攻の母鳥濱トメ資料館”は、軍指定の富屋食堂を営む特攻の母と
慕われたトメと、特攻少年兵たちとの数々の交流のエピソードを紹介し、パネルや
遺品・写真を通じて「命の何たるか」を悲しく問いかけている。(続)

『表紙の写真を更新しました』
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