ゆうべ雪山で遭難した夢を見た。
上も下も真っ白で、谷に降りては危ないが、見上げても尾根らしいものが遥かかなたのようで、ただただ白い壁が迫っていて怖かった。
寝ていて足が寒かったのだろうか。
目覚めて思い出した。
2年前のプチ遭難事件。誰にも語りたくないおとぼけ我が家である。
なぜか山に登りたいという意見で、珍しくだんなと娘とわたしの意見が一致した。
そもそも、年頃の娘とむさいおっさんが合意するという珍しいことが不吉な予感の始まりだったとは、この時は思いもしなかった。
少し前に会社の行事で登ったという娘。
「小学生の遠足で登ったし、お前にちょうどいいやろ」と、
わたしの知力と体力をおもんばかるだんなの優しいお言葉。
それで、わたしはぼおっとついていくだけで良いので楽である。
身なりはハイキング気分、チノパンとTシャツにカーディガン、軍手、タオル。
飲み物はペットボトル各自1本ずつを娘のリックにまとめて入れた。
スリリングな登り口ということで、塔尾(とのお)新道から登ることにした。
沢の横の急斜面を登る。天気は最高。順調に登り、途中で北電の鉄塔のところでお茶を飲んで、これを機会に次々と高い山にチャレンジするのもよいねと話し合っていた。
頂上には予想外に早く着いた。
ここまでは絵に書いたような円満なほのぼの家族である。
周りの景色に見とれ、あちこちうろうろした後、降りる。
降りる道は3方ある。どれだっけ。
「たぶんこっちやと思う」という娘に従う。
登りと同じく旦那が先頭だ。
娘は午後に友達と会うので、8時に登って降りれば遅くとも11時には帰宅できる予定でいた。
朝早いせいか全く人に会わなかった。
あるいは、多くの人は滝が原から登るのだろう。
旦那が分岐点で枝を結び付けてあるところをくぐった。
最後尾のわたしは不思議に思った。
登るときにはこんな枝のアーチはくぐらなかった筈だ。
学歴はないが賢さで旦那に勝るわたしは自信を持って言った。
「なんか違う気がするぅ・・」
「じゃあどっちへ行くのだ?」と、言うことになったら自信などない。
自信満々のふたりには、反論できなかった。
そして、うつむいて疑惑を胸に歩くわたしの目に飛び込んできたのはライターだ。
拾って先頭の旦那に声をかけた。
「おとうさん、ライター落とした?」
「わしのじゃない」
その時、不吉な予感は決定的になった。
まるで旦那の浮気に気づいたときにおきるような、どうか間違いが間違いであってほしいと願うような。いやな予感だ。
幸い、そういう場面に合うこともなく過ごした円満夫婦に疑似体験を迫る山の神様のいたずらか。
登るときに斜面をうつむいて登っていたので、ライターの落し物があれば気づくはず。
おまけに、誰にも会っていないのだ。違う道を歩いていることは確かだ。
主張したが聞き入れられなかった。
日頃のミステリーの読みすぎと思われたか。
とにかく北電の鉄塔をめざそう。登るときに休んだところなので分かるだろう。
しかし、鉄塔はあちこちにある。
到着したところは全く違う鉄塔だ。
とうとう迷ったことを確信した。
こういうときは、戻って上から見て行く先を修正すべきだが、戻る気がしない。
わたし達家族にあるのは、決断ではなく優柔不断だった。
つづく・・・