まこの時間

毎日の生活の中の小さな癒しと、笑いを求めて。

おとぼけ家族のプチ遭難 続編

2008-10-24 | 事件簿
鉄塔を目安に降りていったが、そこは登ったとき休憩した鉄塔とは全く違うところだった。鉄塔は同じ形だがあたりの景色が違うことは誰にも分かった。

終始前進という方針を変えないリーダーに対しいつもならここで、軽いギャグをかますところだ。
「これがほんとの鉄塔徹尾(徹頭徹尾)」と、浮かんだが、状況が悪いので黙っていた。
はるか向こうにも鉄塔がある。そこへ行くには一山超えなくてはならないように思う。
仕方なくやみくもに降りるしかない。
誰ももと来た道へ戻ろうとは言わないし、ここへきてリーダーが誰であるか分からないし、わたしも自分の意見に自信が持てないので、皆と黙々歩くしかない。

誰だこの前登ったし・・と言っていたのは、誰だ小学生の遠足と言っていたのは・・と、心の中では罵倒していたが、しかし、ここで誰をも責められない。
「朝出発でよかったんね。夕方やったら道も見えんし完璧な遭難やわ」
と、励ましたつもりがこの状況では嫌味に聞こえる。
どこへ行っていいのか分からないというのは不安だ。疲れ方も倍増する。
「太陽があっちにあるということは、あっちが海側で、もしかしたら小松に出るかもしれんね」と、思いつきだけを頼りに歩く。
登っているのか降りているのか分からないだらだらとでこぼこの高さが続く。

川の音が聞こえる。
「水の流れに沿って行けば降りられるやろ」と、これまで無口だった旦那がリーダー然としてきた。水は下へ流れるものだ。
そんなの当たり前だろうと思ったが、娘の前でも旦那は立てなくてはならない。
いらぬことを口走らないようにするこの心豊かなわたし。
しかし本来、山で遭難したら谷へ降りるのは危険らしい。

ようやく砂利道が見えてきて、タイヤの後があるのを見た時、小躍りするほど嬉しかった。おまけに、登山の格好をした中年の夫婦らしい人に会う。
この状況で人に会うというのは、何よりほっとする。
ここで熊に会ったら、互いに罵り合いながら逃げるだろう。
その人たちは、杖を持っていて、足にも脚絆のようなものを巻いてる。
もちろん登山靴だ。
「おはようございます」と、挨拶されあまりの自分達のみすぼらしい軽装にちょっと恥ずかしい気がした。
おまけに、今遭難しかけたというふうを見せないように、にこにこ笑って答えた。

しかし、そこは小松の滝が原だ。問題はここからだ。
もう一度登って塔尾へ降りるか、小松から県道を通って山代まで帰るか。
民家のある所まで来て一度腰を下ろすと、もうぐったりだ。

さあどうする。

つづく・・