その喫茶店は「名曲と珈琲ぱるてぃーた」という看板の横の階段を下りると左手にドアがあって、そこには「コーヒーだけ」と、貼ってある。食事もケーキもないのだろうか。何だか怪しい雰囲気だ。おそるおそる扉を押すと、クラッシックな雰囲気で、ちょうどあまりにも有名な「白鳥」の曲がかかっていた。客は一人もいない。ちょっと怪しそうな白髪の年配のマスターがカウンターの向こうにいた。扉を開けて覗いているわたしのほうが怪しいおばさんかもしれない。12時に近いのでお昼を食べたかったが、まあ遅い食事でもいいかと席に着いた。
ミシンのテーブルが面白かった。座ると「コーヒーと紅茶がありますが。」と、問われ「コーヒーを、ホットで。」と、緊張して答える。金沢の観光地のど真ん中の、真昼に、人っ子ひとりいない喫茶店も不思議だ。でも、クラッシック音楽とマスターがコーヒー豆を挽く音とが静かな店内に流れて、わたし一人の為に贅沢な空間になった。曲が替わって「子犬のワルツ」。喧騒を避けてという時はいいかも。店にしたら、人のいないのは困るだろうが。
コーヒーを運んできたマスターが声をかけてきて、意外と話好きであることが判明。収集した不思議な置物や絵の説明などをしてくれた。
寂しい時は誰かと話すのがいい。美味しいコーヒーを飲みながら小一時間話した。その間も客は誰も来なかった。食事時だったせいもあるかもしれないが、とにかく不思議な店だった。