「寝たきりになりたくなければ、ファミレスで"目玉焼きハンバーグ"を頼みなさい」医師がそう勧める理由
健康のためには、どんな食生活を心がけるべきか。医師の栗原毅さんは「重要なのはたんぱく質をたくさん摂ること。卵は優秀な食材で、高齢者になったら1日3~5個は食べたほうがいい」という――。
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※本稿は、栗原毅『一生、歩ける体は70歳からの食べ方で決まる』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
■歩くのもやっとだったのが、「1日5個の卵」で元気になった85歳男性
85歳のAさんが私のクリニックを訪ねてきたときは、顔色もすぐれず、歩くのもヨタヨタという状態でした。
血液検査の数値がどれもよくなく、私は、「卵とお肉をできるだけたくさん食べてください」とアドバイスをして、Aさんを見送りました。
それから4カ月後、再び現れたAさんを見て、私はびっくり仰天しました。なんと顔色はツヤツヤになり、髪は黒々と輝いているではありませんか。まるで別人のようです。
「いったい、どうしたんですか?」と聞くと、「先生に言われた通り、卵を1日5個ずつ食べただけです」と、Aさんは答えました。にっこりと微笑む表情には生き生きとした生命力がみなぎっていました。
■年齢とともに減る「アルブミン値」が劇的に改善していた
Aさんの血液検査で、特に注目すべき変化があったのがアルブミン値です。アルブミンは血液に含まれるたんぱく質で、血液中のたんぱく質の60%を占めています。血液の浸透圧を調整するほか、アミノ酸などの栄養素を運搬する役割を担っています。アルブミンが不足すると、せっかく栄養を吸収しても必要としているところに運べないという不具合が生じます。
アルブミンの値が基準値以下になると、筋肉が弱くなり、転倒したり寝たきりになる人が多くなるのです。しかも、アルブミンは年齢とともに減ることがわかっており、老化の指標ともいわれています。
Aさんが最初にクリニックに来たときのアルブミン値は3.6g/dLしかなく、危険な状態にありました。ところが、4カ月後に元気な姿で現れたときは4.5g/dLに改善していました。
アルブミン値の改善に1日5個の卵が貢献したのは明らかです。卵パワーが老化による衰弱からAさんを救ったのです。
■たんぱく質だけでなくビタミンもカルシウムも摂れる優秀な食材
卵は必須アミノ酸を含む、理想的なアミノ酸組成を持っています。あの不思議な形のカプセルの中に、たっぷりの栄養素が詰まっているのです。
考えてみれば、あの中からひよこという命が生まれてくるのです。完璧な栄養が詰まっているのも、当然といえます。
卵に含まれるたんぱく質は、約10gと覚えてください。もちろん、卵の大きさや品質によって多少の違いはありますが、覚えやすい数字で認識していただければ十分です。
卵の中には、たんぱく質以外の栄養素も含まれています。
卵というと、コレステロール値の悪化を気にする人がいますが、まったく逆です。卵白には悪玉コレステロールを下げるシスチンというアミノ酸が含まれ、卵黄には同様の働きをするレシチンという脂肪酸が含まれています。ますます、卵を見直さなければなりません。
卵に含まれる栄養素は、まだまだあります。
必須アミノ酸のメチオニンは肝臓のアルコール分解を助ける働きがあります。骨をつくる際に欠かせないカルシウム、認知症予防の効果が認められるコリンも豊富です。さらに、カロテンは発がん性物質を抑える力が注目を集めています。
ビタミン群はビタミンA、B2、B6、B12、E、D3と、たっぷりです。まさにサプリメントを飲んでいるようですね。
肌の潤いを保つコラーゲン、かぜ薬に含まれることの多いリゾチウムは、抵抗力、免疫力がアップする成分です。
これだけの栄養素が含まれている食品は、卵のほかに見当たらないでしょう。卵を毎日、食べていれば健康状態がよくなるという話も納得です。
しかも、値段も低く安定しています。卵を常備して、いろいろな調理法で食べるようにすることが健康に直結します。
■「卵はコレステロール値を悪化させる」説はなぜ定着したのか
卵をすすめると、ほとんどの人が「コレステロールが高くなる」と反論します。これほど定着している誤解はほかにないといっていいでしょう。
では、誰が卵を食べるとコレステロールが増えると言い出したのでしょうか。
その犯人は判明しています。
1913年に、ソ連のある科学者(彼の名誉のために匿名)がうさぎに卵を食べさせる実験をしました。すると、うさぎのコレステロール値がみるみる上がったのです。
この実験結果は大きく報道され、世界中で「卵がコレステロールを上昇させる」と今日まで信じられてきたのです。
■今は「コレステロール値は少し高めのほうが良い」説もある
しかし、よく考えてみてください。うさぎは草食動物です。草食動物に動物性の鶏卵を食べさせれば、血液の状態が悪くなるのは当然です。きっと、コレステロール以外の数値も悪化したに違いありません。
これに対して、逆の結論を示す実験が、1981年に日本で行われています。健康な人に1日10個の卵を5日間連続で食べてもらったのです。血液検査の結果、血液中のコレステロール値には、まったく変化がありませんでした。
1日10個も食べて変化がないのですから、日常生活の中で2~3個の卵が健康被害を及ぼすとは、とても考えられません。
そして、コレステロールが生活習慣病の原因になるという学説自体が、もはや古くなりました。
むしろ、コレステロール値が少し高めのほうが、元気があって、フレイル(衰弱)になりにくいという研究も報告されています。コレステロールが各種ホルモンや細胞壁の材料になることを知れば、それも納得です。
動脈硬化の原因になる悪玉コレステロールは、脂質異常、高血糖値、喫煙、ストレスなどが原因です。もし、まだ卵が悪玉コレステロールを増やすと信じているのでしたら、すぐにその考えを改めてください。
■10個パックを買ってきたら半分はまずゆでておく
卵の上手な食べ方について、考えてみましょう。
通常、卵は10個入りのパックで販売されています。卵を買ってきたら、まず4~5個をゆでておきましょう。ゆで卵はサラダの具材として定番なほか、サンドイッチ、おでん、煮物などにも便利に使うことができます。おやつ代わりに食べてもいいですね。
そのほか、一般的な調理法としては、目玉焼きやスクランブルエッグ、オムレツなどが思い浮かびます。どれも手軽に調理ができるのもうれしいところです。
しかし、毎日の食事ですから、多少工夫して変化をつけたいものです。
たとえば、スクランブルエッグに具を追加してみましょう。ひき肉、ソーセージ、ツナ、チーズなどのたんぱく質を加えれば、グレードが上がります。缶詰のビーンズなどもいいですね。
■いつもの野菜炒めに卵を追加するだけでいい
野菜類なら、トマト、アボカド、玉ねぎ、にんにくなどが好相性です。カレー味やイタリアン、メキシカンなど風味にバリエーションをつけるのもいいアイデアです。スーパーマーケットで簡単に使えるミックススパイスが販売されています。いくつかそろえておけば、献立にバラエティができそうです。
いつもの野菜炒めに卵を追加してみましょう。キャベツ、玉ねぎ、もやし、ニラ、ゴーヤなど、どんな野菜とも相性よくなじみます。栄養面ばかりでなく、見た目もきれいになって食欲増進につながります。
チャーハンを作るときも、ぜひ卵を具材に加えてください。
みそ汁やスープを卵とじにするのはいかがですか。最後に溶いた卵を流し入れて、ふわっとさせれば完成です。工夫次第で1日に3~5個の卵を食べることは難しくありません。
■牛丼を食べるときには必ず「生卵」をトッピング
フレイル予防の目的で、たんぱく質をたっぷり摂るために、肉と卵を一緒に食べれば、まさに一石二鳥で効率がいいですね。
まず思い浮かぶのが、親子丼です。
出汁で煮込んだ鶏肉と玉ねぎを卵でとじて仕上げます。出汁がご飯に浸みこんだおいしさは何ともいえません。できれば「ご飯少なめ」で楽しみましょう。
親子丼が出れば、次は牛丼でしょうか。忙しいウィークデーのランチに牛丼を選ぶ人も多いはずです。牛丼を食べるときは、卵のトッピングと「ご飯少なめ」を忘れないでください。
すき焼きには必ず生卵がついてきますね。しっかりと味のしみた牛肉を溶いた卵にからめると、おいしさがさらにアップします。外食で食べるときも、卵はお代わり自由のところが多いようです。遠慮せずにたっぷりといただきましょう。
ちなみに、卵は加熱をすると若干、たんぱく質の量が減ります。したがって、生食のほうが、より効果的にたんぱく質を摂れるといえます。たまには高級な卵で、卵かけご飯もいいですね。
■肉と卵が一緒になったメニューで効率的にたんぱく質を摂る
ファミリーレストランの定番ランチといえばハンバーグです。ハンバーグを注文するときは、必ず目玉焼きがのっているメニューを選んでください。もちろん、家でハンバーグを作るときも目玉焼きを忘れずに。
ハンバーグと同様にひき肉を使う料理にミートローフがあります。ミートローフの中にゆで卵を切らずに並べて入れるレシピがあるのをご存じでしょうか。満足感もアップしますので、ぜひ試してみてください。
ひき肉を炒め、溶いた卵をからめてから味噌とみりんで仕上げれば、おいしいそぼろができます。お弁当のおかずにも重宝します。
ピカタは肉を焼くときに卵をからませる料理です。ポークでもチキンでもおいしく仕上がります。簡単にできますので、たっぷりと卵を使って調理してください。
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栗原 毅(くりはら・たけし)
医師
1951年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。東京女子医科大学で消化器内科学を専攻し、2005年同大学教授。2007年より慶應義塾大学教授。2008年に「栗原クリニック東京・日本橋」を開院。著書は『内臓脂肪は命の危険信号』(小学館)、『「体重2キロ減」で脱出できるメタボリックシンドローム』(講談社+α新書)、『栗原式不老長寿大全』(主婦の友社)など多数。
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