運輸評論家 堀内 重人
2025年春に大阪万博の開催が予定されているが、会場となる夢洲(ゆめしま)はゴミの最終処分場であった。汚染水やガス噴出以外にごみを埋め立てて造成した島であるから、地盤沈下の問題が避けて通れない課題だ。それに加え、大阪市が予想する来場者があった場合、地下鉄や路線バスによる輸送、下水処理などの課題が残る。開催まで残り2年となったが、夢洲にはパビリオンすら満足に整備されていない。
ゴミを埋め造成された「夢洲」
夢洲は大阪市此花区にあり、ゴミを埋め立てて造成された人工島である。大阪市はかつて新都心の開発を目指して、「テクノポート大阪」計画を1988年に策定した。その際、大阪港周辺に人口島が3つ造成されたが、そのなかの1つである。
その後は、バブル崩壊で同計画は水泡に帰した。そこでオリンピック招致を試みたが、これにも失敗してしまった。現在の夢洲は、南部に1万4,000TEU(20フィートコンテナ換算)クラスの大型コンテナ船の寄港が可能な、水深15 mの高規格なコンテナターミナルが2つ備わる。
しまし、日本の産業構造が軽薄短小型に転換したうえに、関西には自動車工場が少ないこともあり、大型のコンテナ船で運ぶのに適した貨物も少なく、コンテナターミナルの利用があまりなく、「夢に終わろうとした島」というのが港湾関係者の視点から見た考えであった。
一方の土木関係者の視点では、「時間と金を十分に使えばコンテナターミナルの可能は広がる。ただ、時間と金をかけなければ不可能」となる。夢洲を全体的に見た場合、オリンピックの招致にも失敗したため、広大な空き地が広がっており、負の遺産と化している。
夢洲の南端地域はロジスティクスセンターと位置付けられ、大規模な物流倉庫の集積地化を進める考えではある。国や大阪市は将来的に産業区域に変更したうえで、先端産業や工場にも夢洲へ進出してほしいと考えている。さらに、国や大阪市はスーパー中枢港湾構想(国際戦略港湾構想)の中核地を目指すなど、コンテナターミナルや物流基地の整備により夢洲を国際物流の拠点としたいとも考えている。
埋め立てがすべて完了すれば総面積は390 haになるが、物流の拠点になるかは貨物のない港湾にはコンテナ船が入港しないため疑問が残る。
「夢洲」と万博の問題点
プロジェクトの専門家である土木関係者の間では、大阪万博について「予定された工期で関連施設の工事が完成して実施できるのか」と、当初から疑問視されていた。
ゴミのなかには重金属が含まれており、今でも汚染水は大量に出ているからだ。また、ゴミが分解する過程で生じるメタンガスなどが、地中から大量に吹き出ている場所がある。メタンガスは都市ガス(天然ガス)の主成分であり、可燃性あるから火気が近くにあると爆発する危険性がある。
大阪市で、ごみ処理や土壌汚染を担当する環境局の職員に聞いた話では、測定器の精度が向上したため重金属はさらに検出されるようになったという。大阪市環境局の職員の話によると、「地盤が脆弱で沈下が進んでいる」と、重金属による環境問題よりもこちらの方を心配していた。
この状況に大阪市は慌てた。少なく見積もっても790億円という巨額な公費を使って地盤を改良し、万博に備えるという話になった。ただ地盤改良だけでなく汚染水やガスの噴出に対する対策も必要であり、これも実施するとなればさらに莫大な予算と高度な技術を要する。
しかし、いくら地盤改良を行っても、埋め立て地であるから建物を建てる最低基準をようやくクリアできるレベルにしかならない。巨大な構造物を立てるとなれば、地中深くまで杭を打つだけでなく水も抜く必要があり施工費が通常よりもかかる。
(つづく)
課題が山積し開催が危ぶまれる大阪万博の現状(後)
2025年春に大阪万博の開催が予定されているが、会場となる夢洲(ゆめしま)はゴミの最終処分場であった。汚染水やガス噴出以外にごみを埋め立てて造成した島であるから、地盤沈下の問題が避けて通れない課題だ。それに加え、大阪市が予想する来場者があった場合、地下鉄や路線バスによる輸送、下水処理などの課題が残る。開催まで残り2年となったが、夢洲にはパビリオンすら満足に整備されていない。
筆者は、夢洲は埋め立て地であることから、「なぜ神戸や関西国際空港から船による輸送も検討しないのか」と考えている。
万博の来場者は、日本だけでなく海外からも来ることが予想される。それならば関西国際空港へ到着した来園者を、船で夢洲の万博会場まで運ぶことを視野に入れるべきだ。関西のなかでも、神戸方面から来訪する人たちにとってみれば、大阪(梅田)へ出て地下鉄よりも、神戸港から船によるアクセスのほうが便利である。四国からの来場者もあることから、高松や徳島からの船によるアクセスも検討すべきだが、それらが検討された形跡もない。
下水処理などの課題
一方、16万人が1日中、夢洲で活動するとなれば、トイレの問題も無視できない。トイレの数を確保すれば良いだけでなく、汚水の処理や手を洗う上水の確保も課題となる。
環境問題に関しては、最大の問題である糞尿処理を夢洲で行わなければ、別の場所までの糞尿を運ぶ必要があり、それをどのように輸送するのかという問題が生じる。下水に関しては、近隣の既存の下水処理施設を使用する計画となっているが、もし1日当たり16万人が来訪した場合、その処理量を圧倒的に上回ることが懸念されるという。
万博の大人1人あたりの入場料が7,500円と、USJの入場料よりも割高になることが、公表されていることもあり、開催すれば閑古鳥が鳴くことが懸念されている。
大阪府や大阪市が面子を維持するためにサクラを動員して、来場者数に関しては予想通りに大成功するとしたとしても、交通問題や汚水処理の問題で大混乱となることが避けられない。現状では成功しても問題があり、失敗すれば負の遺産になる可能性があり、八方塞がりの状況にあるといえる。
開催を延期するか、開催するとしても
規模を縮小する必要がある
万博の開催自体がリスクでもある。万博には153カ国・地域が参加を表明しており、このうち56カ国・地域が独自のパビリオンを建設するとしている。だが、まったく工事が始まっていない。
こうした状況を受け、大阪市などの関係者からは「あと2年もないのに、今から着工して全部完成させることはどう考えても無理である。役所のなかでは万博延期説まで流れ始めている」という。
確かに地盤沈下が激しく、ゴミの埋め立て地であることから、汚染水やガス噴出が発生する夢洲ではこれからパビリオンを建設するとなれば並大抵のことではない。
「工事が遅れるだけでなく、万博から『撤退』する国もあるだろう」と、予想する関係者もいる。関経連の会長で、住友電気工業の松本正義会長は、万博を準備する日本国際博覧会協会の副会長でもあるが、7月18日の記者会見で「パビリオンの建設を意思表示した56カ国のなかにはパビリオンの設計もない、何の反応もない国がある」という旨を公表した。
パビリオンの建設を表明した国からすれば、今回の国や大阪市などの大阪万博への対応が、「まったく話にならない」ものだったということだろう。これでは万博から撤退する国があっても仕方ないといえる。
このような状態で万博を開催すれば、閑古鳥が鳴くことは間違いなく、万博の開催を延期したうえで、規模も縮小して開催することも、視野に入れる必要がある。その際は、割高になり過ぎた入場料を大幅に見直すべきことはいうまでもない。
(了)