本日はベン・ウェブスター&ジョー・ザヴィヌルのリヴァーサイド作品「ソウルメイツ」を紹介します。英語でsoul mateと言えば“心の友”のことですが、ベン・ウェブスターとジョー・ザヴィヌルと言えば、年齢も経歴も全く違う者同士。片やウェブスターはビバップ以前のスイング時代から活躍するテナーの大御所で、録音時の1963年で54歳の超ベテラン。一方のザヴィヌルはオーストリアから本場アメリカにやって来て3~4年の頃。キャノンボール・アダレイ・グループのピアニストとして注目を浴びてきてはいましたが、まだ若手の有望株に過ぎません。
一般的なジャズファンの認識からすればベン・ウェブスターと言えば、どちらかと言えば古臭い印象をもたれがち。ジョー・ザヴィヌルはキャノンボール・バンドでのファンキーな演奏、さらには70年代のウェザー・リポートでフュージョン・ブームを巻き起こした立役者のイメージが強いでしょう。こんな2人が共演したら果たしてどうなるのでしょうか?
結果から言えばいたってシンプルな正統派ジャズなんですね。これぞジャズの王道と言うべきベンのテナーに、ザヴィヌルが合わせるスタイルとなっています。これも録音時の2人の“格”を考えれば当然っちゃ当然ですが。ザヴィヌルからすれば御大ベン様と共演できるだけで光栄!って感じだったでしょうし。セッションは2つに分かれており、リーダー2人に加えてリチャード・デイヴィス(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)のカルテットが4曲。こちらはバラードが中心で、冒頭の歌モノ“Too Late Now”、エリントン・ナンバーの“Come Sunday”、あまり聴いたことのない“Trav'lin' Light”など佳曲揃い。バラード演奏と言えばベン様の真骨頂で、実にゆったりとしたテンポから繰り出されるふくよかなテナーの音色に心を奪われます。ザヴィヌルもきらびやかなタッチでベンを盛り立てます。
もう1つのセッションはサド・ジョーンズのコルネットを加えたクインテットで、ベースがサム・ジョーンズに代わっています。こちらはスインギーなナンバーが中心で、ブルージーなタイトル曲“Soulmates”、全員が疾走する“The Governor”、ほんわかしたラストの“Evol Deklaw Ni”、そして唯一ザヴィヌル作のモーダルな“Frog Legs”などバラエティ豊かな内容です。アップテンポでブリブリ吹きまくるウェブスターはまさに貫禄たっぷりです。今思うと1960年代前半はジャズにとって実に幸福な時代で、このベンだけでなく、ベイシー、エリントン、コールマン・ホーキンスらの大御所もまだ健在で、かつキース・ジャレット、チック・コリアなど現代も活躍する大物達が台頭してきた時期でもあります。この1枚もそんな黄金時代だからこそ生み出された貴重な1枚ですね。