ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ビル・エヴァンス/フロム・レフト・トゥ・ライト

2012-12-02 22:12:58 | ジャズ(ピアノ)
本日は久々にビル・エヴァンスを取り上げたいと思います。と言っても今回ご紹介するのは彼の中では異色の作品と言われている1970年のMGM盤「フロム・レフト・トゥ・ライト」です。何が異色かと言うと、このアルバムでエヴァンスは電子楽器であるフェンダーローズを弾いているからです。しかもバックにはストリングスのオーケストラ付き。キャリアを通じてストイックなピアノトリオ作品を発表し続けたエヴァンスにとってある意味“浮いた”存在の作品で、正直私もこれまで全くスルーしてきました。ただ、いざ聴いてみるとこれがなかなかいいんですね。さすがはエヴァンスだけあって、ただ単に大衆に迎合したり、流行に乗っかったりしたわけではなく、ちゃんとした世界観を持った作品に仕上げています。



全8曲、スタンダードは“Like Someone In Love”のみで、後は聴き馴染みのない曲ばかりですがなかなか良い曲が揃っています。個人的イチ押しはアール・ジンダース作曲の“Soiree”。非常に美しいメロディを持った名曲で、エヴァンスはフェンダーローズとアコースティックを絶妙に使い分けて幻想的なムードを作り上げます。アレンジャーでもあるミッキー・レナードが作曲した“I'm All Smiles”“Why Did I Choose You?”もストリングスを効果的に使った美しいナンバーで、このあたりの曲は電子音が入るというだけでいかにもエヴァンスらしい耽美的な曲想です。ただ、2バージョンある“The Dolphin”は普段のイメージとはかけ離れた陽気なボサノバ。アコギが作り出すブラジリアンなリズムに乗って、エヴァンスが軽快にソロを取ります。ラストの自作曲“Children's Play Song”も子供の遊び声をバックに取り入れたハートウォーミングな曲調。1970年と言えば、モダンジャズが行き詰り、フュージョンが主流になりつつあった時代。そんな中でエヴァンスも方向性を模索していたのでしょうか?結局その後のエヴァンスはフュージョン路線を歩むわけでもなく、80年に亡くなるまで変わらずオーソドックスなスタイルのジャズを演奏し続けますが、本作は単なる一時の気まぐれと切って捨てるには惜しい魅力的な楽曲集だと思います。
コメント