前回「ジャズ・クインテット60」」でも書きましたが、60年代のデンマークはデクスター・ゴードン、ベン・ウェブスター、ケニー・ドリューなど次々と大物ジャズメンが移住してきていて活況を呈していたようです。今日取り上げるサヒブ・シハブはそこまでビッグネームという訳ではありませんが、バリトン、アルト、フルート等を操るマルチリード奏者として50年代のハードバップシーンではそこそこ重宝された存在です。熱心なジャズファンならジョン・コルトレーンの「コルトレーン」、マル・ウォルドロンの「マル2」、アート・ブレイキーのベツレヘム盤などでの彼の演奏を記憶してらっしゃるのではないでしょうか?
本作は1965年、オクターヴという現地のレーベルに残された作品で、サヒブがデンマークで既に有名なグループだったレディオ・ジャズ・グループに参加して録音した作品です。メンバーは総勢17人にも及ぶので列挙はしませんが、比較的名の知られた所ではテナーのベント・イェディク、トランペットのパレ・ミケルボー、ベースのニールス・ヘニング・ペデルセン、ドラムのアレックス・リールあたりが参加しています。5本のサックスに加え、トランペット、トロンボーン、チューバにギター、ヴァイブも加えた重厚なアンサンブルによる力強い演奏が繰り広げられます。
全9曲。おそらく全てリーダーのサヒブの作曲でしょうか?前半4曲は曲風もマイナー調かつ演奏もハードで勝手に北欧風の穏やかな演奏を予想していると面喰います。私が好きなのは後半5曲(レコードで言う所のB面)ですね。どことなくラテン・フレイバー漂う“Mai Ding”は分厚いブラスセクションをバックにサヒブがブリブリ吹きまくる情熱的なチューン。続く“Harvey's Tune”はモーダルなコード進行を持つ軽快なナンバーでここではサヒブはフルートを吹いています。一転して美しいバラードの“No Time For Criers”ではサヒブがロマンチックなバリトン・ソロを聴かせてくれます。疾走感あふれる“The Cross-Eyed Cat”ではサヒブのフルートの後、ベント・イェディクの力強いテナーが聴きモノ。最後の“Little French Girl”ではサヒブが歌声まで披露しますが、これはまあご愛敬というレベル。以上、サヒブのマルチタレントぶりと北欧ジャズメン達のホットな演奏が堪能できる隠れた傑作ではないでしょうか?