デトロイトはジャズの街、と言われても熱心なジャズファン以外ピンと来ないかも知れません。デトロイトといえば、何と言ってもモータウン!60年代にシュプリームス、テンプテーションズ、フォー・トップス、ミラクルズ、マーサ&ザ・ヴァンデラス、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、そしてジャクソン5と多くのスターを生み出したソウル・ミュージックの聖地です。モータウン愛を語り始めたら止まらなくなるのでこの辺にしておきますが、実はそれ以前の40年代から50年代にかけてはジャズが盛んでした。デトロイトと言えばアメリカ自動車産業の中心地ですが、その当時はまだ景気も良く、労働者として全米から多くの黒人が集まって来ました。人が集まれば盛り場も生まれ、ジャズを演奏するナイトクラブも多かったようです。
デトロイト出身のジャズメンを列挙するとすごいことになります。メジャーどころだけでもハンク、サド、エルヴィンのジョーンズ3兄弟にドナルド・バード、カーティス・フラー、バリー・ハリス、ダグ・ワトキンスにドラマーのルイス・ヘイズ。意外なところではミルト・ジャクソンもそうです。それに加えて今日ご紹介するサヴォイ盤「ジャズメン・デトロイト」のケニー・バレル(ギター)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ペッパー・アダムス(バリトン)、ポール・チェンバース(ベース)も全員デトロイト出身。本作では唯一ドラムのケニー・クラークだけがペンシルヴァニア出身で、そのせいかジャケットにも描かれていません。何だか仲間外れみたいですが、バップ草創期から活躍するクラークはすでに重鎮的存在(当時42歳)、今さら顔出しするまでもなかったのでしょう。日本版CDはケニー・バレルがリーダーになっていますが、実際はサヴォイの顔でもあったクラークがデトロイト出身の若者たちを紹介するという企画だったのかもしれません。ちなみに録音当時(1956年4月~5月)の年齢はアダムス25歳、バレル24歳、フラナガン26歳、チェンバース21歳。みんな若いです。
ジャケットはサヴォイにありがちなチープなデザインですが、内容は充実しています。特にレコード面で言うA面の3曲が素晴らしいです。1曲目はジョン・ルイスの名曲”Afternoon In Paris"を原曲の上品さを保ちながらスインギーに仕上げていますし、続く唯一の歌モノ”You Turned The Tables On Me”も思わず一緒に歌い出したくなるような軽快なリズムに合わせて全員が快調にソロを取ります。3曲目のアダムス作”Apothegm”もガツンと来る硬派ハードバップです。フラナガンもバレルもこの年ニューヨークに出てきたばかりの無名の若手でしたが、演奏スタイルは既に確立しており、フラナガンの玉を転がすようなきらびやかなピアノタッチ、ソウルフルでありながら決して重くならないバレルのギターが存分に味わえます。ブリブリと吹きまくるアダムスの重低音バリトンサックスもいいですね。リズムを刻むチェンバースに、御大クラークのドラミングもバッチリです。なお、デトロイトものとして本作のメンバーにドナルド・バードを加え、ドラムをクラークからルイス・ヘイズに変えた「モーター・シティ・シーン」という傑作がベツレヘムに残されています。こちらも必聴です。