本日はクリフ・ジョーダンとジョン・ギルモア、シカゴ出身の2人のテナーマンによる熱き競演をご紹介します。先日「ジャズメン・デトロイト」でデトロイト出身のジャズメン達を列挙しましたが、全米第3の大都市であるシカゴからも当然のことながら多くの才能が誕生しました。特にサックス奏者に逸材が多く、ビバップ期にまずジーン・アモンズ、ハードバップ期にはジョニー・グリフィン、ジョン・ジェンキンス、エディ・ハリス、レッド・ホロウェイ、そしてこの2人が登場します。彼らは皆デュセーブル高校と言うシカゴ市内の公立高校の出身だそうですが、これは単なる偶然ではなく、ウォルター・ダイエットと言う有名な音楽教育者にジャズの手ほどきを受けたからだそうです。(余談ですが同校は他にもナット・キング・コールやダイナ・ワシントン、ジョニー・ハートマンら多くのジャズメンを輩出しています)。
本作はそんなシカゴ出身の2人が1957年3月3日にブルーノートに吹き込んだものです。サポートするのはホレス・シルヴァー(ピアノ)、カーリー・ラッセル(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)。そう、ジャズ史上に名高いあの「バードランドの夜」と同じリズム・セクションです。このことからも当時のブルーノートが彼らの売り込みに力を入れていたことが推測されます。ただ、その後を見てみるとクリフ・ジョーダンの方は「クリフ・ジョーダン」で述べたようにブルーノートやリヴァーサイドを中心にそこそこ活躍しますが、一方のギルモアはリーダー作は結局本作のみ。その他サイドメンでも私のライブラリーには数えるほどしかありません。というのもギルモアは同じシカゴ出身の前衛ジャズの旗手サン・ラが率いる”アーケストラ”というバンドの中心人物として長年活動したらしいです。私は前衛音楽は門外漢なのでそれらの演奏を耳にしたことありませんが、そちらの世界では結構有名だったようです。もっとも本作でのギルモアのプレイは直球ハードバップで前衛音楽の痕跡は欠片も見られません。
曲はボーナストラックを含めて全7曲。歌モノスタンダードは1曲もありません。ただ、曲調的にはどこかで聞いたような旋律で、それもそのはず1曲目”Status Quo”は”There Will Never Be Another You"、2曲目"Bo-Till"は"What Is This Thing Called Love?" 、7曲目”Let It Stand”は”It’s You Or No One”とそれぞれスタンダード曲のコード進行をそれぞれ変えたものです。3曲目”Blue Lights”はジジ・グライス、4曲目”Billie’s Bounce"はチャーリー・パーカーのそれぞれ有名なバップナンバーです。個人的お薦めはハードドライヴィング調の”Status Quo”と”Billie’s Bounce"。アート・ブレイキーの怒涛のドラミングに煽られるようにメンバー全員が熱のこもったソロを聞かせてくれます。5曲目の”Everywhere”もホレス・シルヴァー作らしいメランコリックな旋律を持った佳曲です。リーダー2人のプレイはと言うと、どちらもよく似ていて、正直私にはどちらがジョーダンでどちらがギルモアか区別がつきません。テナーバトルと言っても2人のソロの対決のような雰囲気はなく、クインテットで一体となった演奏を楽しむべき作品です。