ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ

2024-02-22 21:18:52 | ジャズ(クールジャズ)

ブログ再開後、ひたすら黒人ハードバップを取り上げてきましたが、今日は少し趣向を変えてブルーノートの隠れ名盤「ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ」を取り上げます。ユタ・ヒップについては、以前にも代表作「ユタ・ヒップ・アット・ザ・ヒッコリー・ハウス」を取り上げました。ドイツ出身の女性ピアニストで、黒人ジャズ主体の同時代のブルーノートではかなり異色の存在でした。本作は「ヒッコリーハウス」の3ヶ月後の1956年7月28日に録音されたもので、タイトル通りテナーのズート・シムズを大々的にフィーチャーしています。残りのメンバーは白人トランペッターのジェリー・ロイド、ベースにアーメッド・アブドゥルマリク、ドラムにエド・シグペンというラインナップです。

内容に入る前に一言。これ、どう考えてもズート・シムズが主役ですよね?ネームバリューももちろんですが、実際にプレイを聴いた感想も同じです。随所に披露するユタ・ヒップのソロも悪くはないですが、目立ち度では完全にズートです。ブルーノートではかの名盤「サムシン・エルス」がコロンビアと契約中のマイルス・デイヴィス名義で発売できないがために、キャノンボール・アダレイを名目上のリーダーにしたというのが有名ですが、本作も実際はズート・シムズが目的なのかもしれません。ただの邪推かもしれませんが・・・(実際ズートのブルーノート録音は本作のみです)

演奏はCD用のボーナストラック2曲を含めて計8曲です。1曲目はズートのオリジナル”Just Blues”。タイトル通りアーシーなナンバーで、のっけからズートが絶好調です。ロイドのソロを挟んで満を持してヒップのソロの出番ですが、1分もしないうちに終了で拍子抜けします。やっぱり完全にズートを聴くアルバムですね。2曲目は本作のハイライトでもある”Violets For Your Furs”。「コートにすみれを」の邦題で知られる名曲で、ジョン・コルトレーンの名演でも知られていますが、個人的にはこちらに軍配を上げます。美しいヒップのイントロに続くズートのテナーに一発でノックアウトされます。どうやったらこんなにふくよかで滋味深い音が出せるのか?まさにテナーによるバラードの極致とでも言うべき名演です。ヒップもここでは長めのソロを取りますが、端正なバラード演奏はなかなか良いです。続く”Down Home”はロイドのオリジナルで軽快なスイング調のナンバー。このロイドと言う人はあまり聞いたことがないですが、オールドスタイルの演奏が持ち味のようですね。残りは”Almost Like Being In Love””Too Close For Comfort””These Foolish Things””’S Wonderful"の歌モノスタンダード4曲に、J・J・ジョンソンの"Wee Dot”。どれも有名な曲ばかりではっきり言ってベタな選曲ですが、そこは絶好調ズートのソロのおかげで水準以上の出来に仕上がっています。リーダーのヒップはと言うと、どちらかと言うと訥々とした語り口のピアノで、絶好調ズートを横目にマイペースにプレーしています。誰がリーダーなのかと言う問題は置いといて、良い作品であることには間違いありません。

 

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リー・モーガン/シティ・ライツ

2024-02-21 21:01:18 | ジャズ(ハードバップ)

本日はリー・モーガンの「シティ・ライツ」をご紹介します。先日サヴォイ盤「イントロデューシング・リー・モーガン」を取り上げましたが、1956年11月に18歳で鮮烈なデビューを飾ったモーガンはブルーノートから怒涛の勢いでアルバムを発表していきます。翌12月には「リー・モーガン・セクステット」、1957年3月に「リー・モーガンVol.3」、その後ジョニー・グリフィンの「ア・ブローイング・セッション」や前回ブログの「クリフ・ジョーダン」への参加を経て、本作を吹き込んだのが1957年8月。モーガンはまだ19歳になったばかりでしたが、既に風格さえ感じられます。

本作はベニー・ゴルソンをアレンジャーとして迎えた3管編成によるセクステット。ただし、ゴルソンは演奏には参加せず、サックスにはジョージ・コールマンが名を連ねています。その他のメンバーはカーティス・フラー(トロンボーン)、レイ・ブライアント(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)です。何気にサックス以外のメンバーが前回の「クリフ・ジョーダン」と全く一緒ですね。ちなみにコールマンはメンフィスからニューヨークに出てきたばかりで、おそらくこれが初レコーディングではないかと思われます。

全5曲、うち"City Lights"、"Tempo De Waltz"、"Just By Myself"の3曲がゴルソンのオリジナルで、ラストの"Kin Folks"がジジ・グライス作、"You're Mine You"が1曲だけ歌モノスタンダードです。過去ブログでも述べていますが私はテナー奏者としてのゴルソンはそこまで好きではありませんが、作曲・編曲の手腕は大いに評価しています。本作でもモーガンの輝かしいトランペットを前面に押し出しながらも、3管の分厚いサウンドを作り上げることに成功しています。オススメは"You're Mine You"と"Just By Myself"の2曲。前者はサラ・ヴォーン等で知られる名バラードですが、ここではフラーもコールマンもアンサンブルに徹し、モーガンが情熱的なソロをたっぷり聴かせてくれます。"Just By Myself"はフラーとコールマンも加わって熱いソロを繰り広げますが、主役はあくまでモーガン。高らかに鳴り響くハイトーンと創造性に満ちたアドリブはジャズ・トランペットの神髄と言っても過言ではありません。モーガンはこの後ブルーノートからさらに「ザ・クッカー」と「ペッキン・タイム」を発表して栄光に満ちた10代を終えます。モーガンは1960年代にも「ザ・サイドワインダー」等ジャズ・ロック路線でヒットを連発し、ブルーノートの看板であり続けますが、ハードバッパーとして一番輝いていたのはこの頃かもしれません。

 

 

 

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クリフ・ジョーダン

2024-02-20 21:17:30 | ジャズ(ハードバップ)

本日はクリフ・ジョーダンのセルフタイトル作品をご紹介します。フルネームはクリフォード・ラコニア・ジョーダン。リヴァーサイドや他レーベルではクリフォード・ジョーダン名義で活動しており、そちらの方が通りが良いかも知れませんますが、ブルーノートに残したリーダー作は全てクリフ・ジョーダン名義ですので、ここではクリフの方で通します。決してビッグネームという訳ではありませんが、ジャズの世界で確かな足跡を残した名テナー奏者です。活動歴も意外と長く、1993年に亡くなるまでコンスタントにリーダー作を発表し続けたようです(私は60年代以降の作品はほとんど聴いたことがありませんが・・・)。元々はシカゴ出身ですが、1957年にニューヨークにやってきて、ブルーノートから3枚のリーダー作を続けて発表しました。本作はその2作目で録音年月日は1957年6月2日です。

本作ですが参加メンバーが凄いです。4管編成のセプテットでジョーダン以外のメンバーがリー・モーガン(トランペット)、カーティス・フラー(トロンボーン)、ジョン・ジェンキンス(アルト)、レイ・ブライアント(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)と言う超豪華布陣。モーガン、フラーと言ったブルーノートの看板プレイヤーたちの参加が目を引きますが、幻のアルト奏者ジェンキンスの参加も注目です。何でもジョーダンとジェンキンスはシカゴの同じハイスクールの同級生だそうです。(ちなみに同級生にはもう1人テナーのジョン・ギルモアがいて、3年先輩にジョニー・グリフィンがいたとか。一体どんな高校なんだ!)

曲は全5曲。4人の管楽器奏者が1曲ずつオリジナルを持ち寄り、残り1曲は歌モノです。1曲目のジョーダン作”Not Guilty”はくつろいだ雰囲気を持つ魅力的なミディアムチューンで、ジョーダン、フラー、ジェンキンス、ブライアントがたっぷり尺を取ってソロをリレーしていきます。なお、この曲と3曲目のフラー作”Blue Shoes”にはモーガンは参加していません。2曲目ジェンキンス作”St. John”、4曲目唯一の歌モノ"Beyond The Blue Horizon"、5曲目モーガン作”Ju-Ba”は全員が参加しますが、中でもおススメが"Beyond The Blue Horizon"。何でも1930年にジャネット・マクドナルドという歌手がヒットさせた曲らしいですが、ヴォーカルでもインストゥルメンタルでも本作以外ではあまり聞いたことがありません。ただ、旋律も十分魅力的ですし、何より演奏が素晴らしい。原曲のバラードがドライブ感たっぷりのハードバップに仕上げられており、メンバー全員が快調にソロをリレーして行きます。ズバリ名曲・名演と言って良いでしょう。

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アート・ファーマー & ベニー・ゴルソン/ミート・ザ・ジャズテット

2024-02-19 21:28:26 | ジャズ(ハードバップ)

本日は1960年発表の人気作品「ミート・ザ・ジャステット」です。ジャズテットとはトランペッターのアート・ファーマーとテナーのベニー・ゴルソンによる双頭リーダーによる3管編成のセクステットで本作を皮切りに1962年まで6つの作品をアーゴ及びマーキュリーに残しています。本ブログでも以前にマーキュリー盤「ヒア・アンド・ナウ」を取り上げました。リーダーの2人以外のメンバーは流動的で本作ではカーティス・フラー(トロンボーン)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、アートの弟アディソン・ファーマー(ベース)、レックス・ハンフリーズ(ドラム)という顔ぶれです。ちなみに当時21歳のマッコイ・タイナーはフィラデルフィアからニューヨークに出てきたばかりで、これが初レコーディングだそうです。

曲は全10曲。全てが3分から5分程度の短い演奏で、うち半分の5曲が有名な歌モノスタンダードです。残りの5曲中4曲もゴルソンのオリジナル曲ですが、ラストの"Killer Joe"を除けば"I Remember Clifford""Blues March"など既出の曲ばかり。ずばり売れ線狙いの構成と思います。本作はジャズ名盤特集などで必ずリストアップされるほどの人気作品ですが、個人的にはそのあたりがやや鼻につくこともあり、そこまで高く評価していません。とはいえ、演奏の質はやはりさすがで、ゴルソンのテナーは若干くどいですが、まだまだ熱かったファーマーのトランペット、"Avalon"や"It's All Right With Me"で超高速パッセージを連発するフラーらのアンサンブルが楽しめます。半年後にジョン・コルトレーン・カルテットに加入するタイナーはまだ新人だったせいかお得意の飛翔するピアノソロは控え目ですが、随所にキラリと光るプレーを見せてくれます。おすすめはルロイ・アンダーソンのクラシック曲を超アップテンポに料理した"Serenata"、有名なジャズ・メッセンジャーズのバージョンとは違う楽しさがある"Blues March"、アート・ファーマー作の必殺ファンキー・チューン"Mox Nix"、本作が初出で後に定番曲となるとなる"Killer Joe"などです。

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ジャズメン・デトロイト

2024-02-17 15:09:38 | ジャズ(ハードバップ)

デトロイトはジャズの街、と言われても熱心なジャズファン以外ピンと来ないかも知れません。デトロイトといえば、何と言ってもモータウン!60年代にシュプリームス、テンプテーションズ、フォー・トップス、ミラクルズ、マーサ&ザ・ヴァンデラス、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、そしてジャクソン5と多くのスターを生み出したソウル・ミュージックの聖地です。モータウン愛を語り始めたら止まらなくなるのでこの辺にしておきますが、実はそれ以前の40年代から50年代にかけてはジャズが盛んでした。デトロイトと言えばアメリカ自動車産業の中心地ですが、その当時はまだ景気も良く、労働者として全米から多くの黒人が集まって来ました。人が集まれば盛り場も生まれ、ジャズを演奏するナイトクラブも多かったようです。

デトロイト出身のジャズメンを列挙するとすごいことになります。メジャーどころだけでもハンク、サド、エルヴィンのジョーンズ3兄弟にドナルド・バード、カーティス・フラー、バリー・ハリス、ダグ・ワトキンスにドラマーのルイス・ヘイズ。意外なところではミルト・ジャクソンもそうです。それに加えて今日ご紹介するサヴォイ盤「ジャズメン・デトロイト」のケニー・バレル(ギター)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ペッパー・アダムス(バリトン)、ポール・チェンバース(ベース)も全員デトロイト出身。本作では唯一ドラムのケニー・クラークだけがペンシルヴァニア出身で、そのせいかジャケットにも描かれていません。何だか仲間外れみたいですが、バップ草創期から活躍するクラークはすでに重鎮的存在(当時42歳)、今さら顔出しするまでもなかったのでしょう。日本版CDはケニー・バレルがリーダーになっていますが、実際はサヴォイの顔でもあったクラークがデトロイト出身の若者たちを紹介するという企画だったのかもしれません。ちなみに録音当時(1956年4月~5月)の年齢はアダムス25歳、バレル24歳、フラナガン26歳、チェンバース21歳。みんな若いです。

ジャケットはサヴォイにありがちなチープなデザインですが、内容は充実しています。特にレコード面で言うA面の3曲が素晴らしいです。1曲目はジョン・ルイスの名曲”Afternoon In Paris"を原曲の上品さを保ちながらスインギーに仕上げていますし、続く唯一の歌モノ”You Turned The Tables On Me”も思わず一緒に歌い出したくなるような軽快なリズムに合わせて全員が快調にソロを取ります。3曲目のアダムス作”Apothegm”もガツンと来る硬派ハードバップです。フラナガンもバレルもこの年ニューヨークに出てきたばかりの無名の若手でしたが、演奏スタイルは既に確立しており、フラナガンの玉を転がすようなきらびやかなピアノタッチ、ソウルフルでありながら決して重くならないバレルのギターが存分に味わえます。ブリブリと吹きまくるアダムスの重低音バリトンサックスもいいですね。リズムを刻むチェンバースに、御大クラークのドラミングもバッチリです。なお、デトロイトものとして本作のメンバーにドナルド・バードを加え、ドラムをクラークからルイス・ヘイズに変えた「モーター・シティ・シーン」という傑作がベツレヘムに残されています。こちらも必聴です。

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