安全運転とバスについて。
少し前、静岡県中央部で独占的に展開する静岡鉄道のバス部門「しずてつジャストライン」の一般路線バスに乗った。数年ぶりの利用だったが、変化があった。
今までは、よくある地方のバス会社といった感じで、秋田のバス会社ともあまり差がなかったのだが。
運行中、バス停や信号待ちから発車するたびに、マイク・スピーカーを通して運転士のこんな声が聞こえてきた。
「左・前よし、右よし、車内よし。発車します」
さらに、右左折時にはいったん停車してからハンドルを切り、横断歩道通過時には速度を緩めて「横断歩道よし」とも言っていた。
信号待ちで長めに停車する時は、フットブレーキではなく「ホイールパーク」と呼ばれるパーキングブレーキの一種を使って停めていた。
※昔のバスやトラックは、普通乗用車と同じレバーを引くサイドブレーキだったが、2000年以降の新車は圧縮空気で制動する「ホイールパーク」装備が義務づけられている。バスの場合は、ハンドル左横のレバーで操作する。
今回は、同じ営業所所属の年配の運転士と若い運転士のバスにそれぞれ乗車(3回乗ったのだが、2回は偶然同じ人だった)したが、どちらも上記の行動をとっていた。
営業所ぐるみもしくは全社的な取り組みだと思われ、交通事故防止のためなのは想像に難くない。以前、三重交通でも同じような取り組みをしていたが、それよりも厳重に感じた。これだけしっかりやれば、事故は起こらないだろうなと、感心したものだった。
帰ってから調べてみた。
しずてつジャストラインがこの取り組みを始めたのは、歩行者の死亡事故を引き起こした反省を踏まえてらしい。
やらないよりはやるべきなのは当然だが、事故を引き起こして初めて対策をするというのでは、順番が違うと思う。
事故が起こる前から防止の取り組みをしていれば、事故は防げたかもしれないのに。この点では残念。
ここで同社の車両について少々。新しい大型車が多いしずてつジャストラインだが、古い中型車もちらほら。
静岡市清水区で見かけた車両
上の写真は、富士重工「6Eボディ」を載せたいすゞ車。少なくとももう1台同型車(25-97)が現役。
秋田では先月時点で10台の在籍(いずれも他社中古)を確認していて、負けていない。
この車で変わっているのは、
非常口の窓が開閉すること!
こんなバスが存在するとは夢にも思わなかった。目立たない点だが、かなりの珍車ではないだろうか。
【2015年6月13日追記】1978年末公開の映画「男はつらいよ 噂の寅次郎」に映る、静岡県の大井川鉄道のバス(千頭駅から下泉行きにという設定)も、非常口が開く構造のようだ。いわゆる「バス窓」の車両で、非常口部分だけが前後にスライドする構造。
【2018年12月7日追記】さらにもっと新しいバスでも、非常口窓が開くものがあった。同じしずてつジャストライン相良営業所の富士重工7Eボディの車。上の写真の6Eボディと同じように窓が上下2分割されていることが、2017年3月放送の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」で、車内外とも確認できる。
【17日追記】もう1つ変化があった。Suicaで運賃を支払えるようになっていたこと。以前からあった自社のICカードと合わせて、利用者は多かった。
※2017年春のしずてつジャストラインについて
さて、我が秋田のバス会社。
記憶する限り、死亡事故はかなり長い間起こしていない。
たまに「かつての秋田市営バスに比べて、この会社は運転が乱暴」という話が聞こえることもあるが、最近はそうでもないと思う。(そうでなくもないのもまた真ではある)
そもそも、市営バスにだって乱暴な運転士は一部に存在した。
新聞にバスが絡む軽微な衝突事故などが掲載されることはあるが、それはたいてい、積雪時にスリップした車がぶつかって来たような、一般車両側に起因するものがほとんどのように見受けられる。
事故が少ないという点では、安心できる。か?
そうではないと思う。運良く、偶然、大きな事故が起きていないに過ぎないと思う。
昨年、A線のB四丁目だか三丁目で、車内の乗客が転倒してけがをする事故があったと、新聞に掲載された。
記事は「発車直後に転倒した」とあったはず。停車直“前”の転倒なら、気の早い客が立ち上がったという、客の責任も大きいアクシデントだが、発車直“後”となればどうだろう。運転士が車内をよく確認したり、「発車します。ご着席ください」と一声かければ、起きなかった事故かもしれない。
事故扱い・ニュースにはならないが、他にも、似たような事例が起きたという話も聞いた。
※一般に、乗客が転倒するなど車内事故が発生すれば、その運転士は歩行者に対する事故を起こしたのと同様の責任を問われるそうです。乗客としては、不用意に車内を立ち歩かないよう心がけて協力するべきだが、だったら運転士側ももっと配慮して運転してほしいものでもある。
今は、けが人程度で済んでいるが、それは運がいいだけ(けがをしたお客には気の毒ですが)であり、運が悪ければ重大な事故につながらないとも言い切れないのではないか。
多少面倒かもしれないが、しずてつジャストラインのように目で見て、声を掛けるだけで事故の可能性を減らせるはずなのに、どうしてやらないのだろう。費用だって別段かからないのに。大きな事故が起きていない今だからこそ、取り組むべきだと思う。
もちろん、現在でも(声は出さなくても)確実に安全確認している運転士は大勢いるし、会社としても安全運転の研修などは実施しているようだ。だが、中には、手を抜いていると思わざるを得ない場面にも遭遇する。まして、しずてつジャストラインの取り組みを知ってしまえば。
秋田のバス会社(というか、しずてつジャストラインのような取り組みをしていない各バス事業者)はしずてつジャストラインの取り組みとそれに至った経緯を知っているだろうか。知っているとしたら、自分の会社で同じようなことがあったら…という想定・想像はしているのだろうか。
今回調べていたら、「運輸安全マネジメント」の存在を知った(前から何となく分かっていたけど)。
国土交通省のホームページ(http://www.mlit.go.jp/unyuanzen/outline.html)によれば、2006年に「運輸事業者の皆様自らが経営トップから現場まで一丸となり安全管理体制を構築・改善することにより輸送の安全性を向上させることを目的」に始まった制度で、バスやトラックの運行事業者に主体的かつ全社を挙げてに安全運行対策を取り組ませようとするものらしい。
策定した内容は「運輸安全マネジメントに関する取り組み」や「運輸安全報告書」として各社のホームページに掲載されていることが多く、例えば(貨物輸送者として)たけや製パンでも掲載している。
しずてつジャストラインでは、運輸安全報告書において、上記の声を出して確認することや、右左折・横断歩道通過の方法などが記載されている。他にも、研修や街頭監査するとかいろいろ書かれている。
しずてつジャストライン以外でも、日頃の運転や点検体制のみならず車両や設備(ドライブレコーダーなど)の改善に言及する会社も多い。それらが実行されれば、かなり安全に運行できることだろう。
「絵にかいた餅」になる恐れもあるが…
他のバス会社の運輸安全マネジメントを見てみた。会社によって内容にかなり差がある。
まず、秋田の某社(平成25年度)。
秋田市内の2つの営業所別に、目標とその達成の具体策を示している。
五城目と男鹿は記されていないが、その2つは営業所業務そのものを子会社に委託しているためだろう(子会社と連携を取る旨は記載されている)。
A営業所は当たり障りがないことだが、R営業所は「回転地での事故ゼロ(特に回転地)」が目標(カギカッコ内は原文ママ)。
カッコ内「特に回転地」が意味不明なのもおかしいが、そもそも回転地って基本的にはバスの占有地である。乗降客との事故は可能性があるし、間違って一般車両が入ることがあるかもしれないが、そんなに事故が起こるものだろうか。
その具体策で「ドライブレコーダーを活用」とか「除雪状態が悪い時は無理せず迂回運行」とあるのが、分からない。それらが回転地の事故防止になるの?
※この会社でもドライブレコーダーを搭載しているのか。【20日追記】たしかに、小田急中古のノンステップエルガミオには、運賃表示器の下辺りに「ドライブレコーダー取付車」とかいう黄色い表示があって、それらしきものが設置されていた。
今年度はどんな目標なんでしょうか?
「道路上での事故ゼロ(実質的には減少)」とかA線の事故を踏まえた「車内事故撲滅」を目指してほしい。
【2018年12月7日追記】その後、2018年には、A営業所管轄のO団地線のO停留所で、発車時に乗客が転倒する事故があった。新聞の社会面に小さく載っただけで、大事には至らなかったようだ。事故の状況は詳しく分からないが、現場は立ち客がいるほど混雑する区間ではないはずだし、周りの交通量を考えてもゆっくり走行することは可能なはず(時間帯も、混雑せず明るい頃だったと記憶する)。運転士が車内を確認し、アナウンスしてから動かせば防げた事故だったように感じられてならない。相変わらずのバス会社である。
他社と比べると、全般に中身が薄いように感じた。他社が「絵にかいた餅」だとすれば、それ以前の「絵にかいたすいとん」程度のような。
あと、自分が事故を起こさないことばかり書き連ねて、お客への配慮が少ないようにも感じる。上記、「除雪状態が悪い時は無理せず迂回運行」とあるが、それはお客に不便を強いることである。それに不慣れな迂回経路では、また違った事故を起こしてしまうかもしれない。
例えば「同時に道路管理者へ早期の除排雪を依頼し、迂回の解消に努める」とか「速やかに掲示やホームページでお客さまへ迂回の周知を行う」とか書き添えたらどうか。
あとは、「バス停誤通過の撲滅」も入れたらどうでしょ。
それにより、通過されたとあわてた客が転倒する車内事故、急停車して後続車に追突されるなど、事故防止にもつながると思う。もちろん乗客も安心して乗車できる。
もしくは、「弊社と仲が良い小田急バスに協力を仰ぎ、安全運転のノウハウを教えてもらう」とか。
他社ではよくある「社長(役員)が年に○回以上、全営業所を巡回し…」というのもないようだし。(経営者が現場にノコノコ来られても、迷惑なのかもしれないが…)
単純な誤字もあった。
経営者たちは果たして目を通しているのだろうか。ほんとうに全社を挙げて取り組んでいるのだろうか。
そういえば、NHKのローカルニュースで、昨秋の観光キャンペーンの映像が流れていた。
秋田駅の改札口で、かすりの着物のおばこに観光客がカメラを向けるシーンがあったのだが、その背後で、ぼーっと突っ立っていたのが、ここの社長さん。そこは気を使ってよけてくださいよ!
一方、青森の弘南バス。
弘南バスの平成23年度のマネジメントの資料「平成22年度経営方針 名実ともに地域No.1企業を目指す」では、取り組むことが細かく記載されている。
「身だしなみに気を配る」「職業運転士としての自覚を持つ」、車輌美化として「車内掲示物の確認、撤去」「(車内外、ガラスの)清掃」「定期的な板金作業実施」といった安全運行には直接関係ない項目、窓口や電話の対応、営業所の経費節減のため「ドアは開けたら閉める」「本社営業所間の情報伝達をFAXからメールへ」、貸切利用増のための営業活動といったことにも言及しており、全社的な取り組みであることが分かる。見習うべき会社がありそうだ。
「乗務員を呼ぶ際は(○○さん)」というのがあるのだが、じゃあ今まではなんて呼んでたの? 呼び捨て?
他にも弘南バスらしさを感じる箇所があって、おもしろい。
「お客様には優しさを持って接する(笑顔で応対、命令口調は×)」
→最初に断るが、少なくとも最近の弘前市内の弘南バスでは、接客態度が悪い運転士は見たことがない。
津軽弁の口調や言い回しが、遠来の人には乱暴に感じてしまうことはあると思う。最近は、白神山地などへ外国人も多く来るようになり、大変ではある。
「走行中の方向幕の操作禁止」
→方向幕とは行き先表示器。一般的には、LED式も、フイルムに印字した幕式でも、決められた数字を入力すれば、そのコマを自動的に表示する。
ところが、弘南バスの幕式のものは、自動停止機能がない。そのため、運転士が覗き窓から見ながら、「進む」「戻る」のスイッチを操作して表示を変えている。だから、正面の方向幕であっても、運転席から立ち上がらないと確認や操作はできない。
その操作を走りながらやらないということ。かなり“難易度”が高そうな行為だが、それをやった強者がいるのか?(信号待ち中はやっていいのかな?)
「降車ボタンの位置(座ながら押せる等)」
→正しくは「座ったまま押せる」ようにボタンの位置を改善しようということだろう。
今の新車はバリアフリー対応で降車合図ボタンの高さが決められているが、古いバスはまちまち。おかしな位置にボタンがある車もたまにある。秋田市営バスの194・195号車では、中ドアの戸袋の席のボタンがとても高い所にあって、座ったままでは手を伸ばしても押せなかった。
弘南バスでは企業の従業員送迎バスなど「自家用バス」だったものを中古で買って、路線用にしたものがある。最近は少なくなったようだが、弘前市外に多かった傾向。
「56122-10」(2008年撮影)
桜ヶ丘案内所所属(撮影当時は車庫機能があった)だった、1986年製の日野製中型車。子会社「弘南サービス」からの移籍車両のようだが、仕様としては自家用。窓の開き方からして、降車ボタンの位置は変則的だったはず。
元自家用ならば降車ボタンなどなく、弘南バスに来た時点で後付けされていた。ボタン自体はどこから持ってきたのかオージ製のちゃんとしたものだが、配線はホームセンターで売っているカバーを使ったりして、なかなか手が込んでいた。
その中に、押しにくい設置位置のものがあったのだろうか。
ただし、だいぶ前に乗った大鰐だか黒石の元自家用車両では、窓枠の下にボタンが設置されていて、これこそ押しやすい位置だと思った。
「(故障について)過去の事例から同年代、同型の車輌を点検修理する」
「廃車バスから活用できる部品を有効利用する」
→経年車が多い地方では、どこのバス会社でもやっていそう。
弘南バスの場合、上記のように種々雑多な形式と経歴の車輌があるから、「同年代、同型」でくくるのは大変そうにも感じる。
秋田の場合、自社発注か小田急中古のいすゞばかりだから、その点では楽でしょうか。
各社の自主性を重んじながら、安全運行をするのが運輸安全マネジメントの目的だとしても、ひとりよがりで意味がないことをやっていては、有名無実。他社の取り組みも参考にし、ほんとうに意味があってかつ実現可能な取り組みをしてもらわないと、役に立たない。
いくら注意しても事故は起こるものであるが、極力避けることはできるはず。各社には、そのことを忘れないで、できることはやってほしい。国土交通省ももっと口出ししてもいいのではないだろうか。
運輸に関わる者が最優先・最重要視することは「安全」である。そして、お客や地域住民の立場からすれば、地元の路線バスが事故を起こす姿なんて見たくないのです。
少し前、静岡県中央部で独占的に展開する静岡鉄道のバス部門「しずてつジャストライン」の一般路線バスに乗った。数年ぶりの利用だったが、変化があった。
今までは、よくある地方のバス会社といった感じで、秋田のバス会社ともあまり差がなかったのだが。
運行中、バス停や信号待ちから発車するたびに、マイク・スピーカーを通して運転士のこんな声が聞こえてきた。
「左・前よし、右よし、車内よし。発車します」
さらに、右左折時にはいったん停車してからハンドルを切り、横断歩道通過時には速度を緩めて「横断歩道よし」とも言っていた。
信号待ちで長めに停車する時は、フットブレーキではなく「ホイールパーク」と呼ばれるパーキングブレーキの一種を使って停めていた。
※昔のバスやトラックは、普通乗用車と同じレバーを引くサイドブレーキだったが、2000年以降の新車は圧縮空気で制動する「ホイールパーク」装備が義務づけられている。バスの場合は、ハンドル左横のレバーで操作する。
今回は、同じ営業所所属の年配の運転士と若い運転士のバスにそれぞれ乗車(3回乗ったのだが、2回は偶然同じ人だった)したが、どちらも上記の行動をとっていた。
営業所ぐるみもしくは全社的な取り組みだと思われ、交通事故防止のためなのは想像に難くない。以前、三重交通でも同じような取り組みをしていたが、それよりも厳重に感じた。これだけしっかりやれば、事故は起こらないだろうなと、感心したものだった。
帰ってから調べてみた。
しずてつジャストラインがこの取り組みを始めたのは、歩行者の死亡事故を引き起こした反省を踏まえてらしい。
やらないよりはやるべきなのは当然だが、事故を引き起こして初めて対策をするというのでは、順番が違うと思う。
事故が起こる前から防止の取り組みをしていれば、事故は防げたかもしれないのに。この点では残念。
ここで同社の車両について少々。新しい大型車が多いしずてつジャストラインだが、古い中型車もちらほら。
静岡市清水区で見かけた車両
上の写真は、富士重工「6Eボディ」を載せたいすゞ車。少なくとももう1台同型車(25-97)が現役。
秋田では先月時点で10台の在籍(いずれも他社中古)を確認していて、負けていない。
この車で変わっているのは、
非常口の窓が開閉すること!
こんなバスが存在するとは夢にも思わなかった。目立たない点だが、かなりの珍車ではないだろうか。
【2015年6月13日追記】1978年末公開の映画「男はつらいよ 噂の寅次郎」に映る、静岡県の大井川鉄道のバス(千頭駅から下泉行きにという設定)も、非常口が開く構造のようだ。いわゆる「バス窓」の車両で、非常口部分だけが前後にスライドする構造。
【2018年12月7日追記】さらにもっと新しいバスでも、非常口窓が開くものがあった。同じしずてつジャストライン相良営業所の富士重工7Eボディの車。上の写真の6Eボディと同じように窓が上下2分割されていることが、2017年3月放送の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」で、車内外とも確認できる。
【17日追記】もう1つ変化があった。Suicaで運賃を支払えるようになっていたこと。以前からあった自社のICカードと合わせて、利用者は多かった。
※2017年春のしずてつジャストラインについて
さて、我が秋田のバス会社。
記憶する限り、死亡事故はかなり長い間起こしていない。
たまに「かつての秋田市営バスに比べて、この会社は運転が乱暴」という話が聞こえることもあるが、最近はそうでもないと思う。(そうでなくもないのもまた真ではある)
そもそも、市営バスにだって乱暴な運転士は一部に存在した。
新聞にバスが絡む軽微な衝突事故などが掲載されることはあるが、それはたいてい、積雪時にスリップした車がぶつかって来たような、一般車両側に起因するものがほとんどのように見受けられる。
事故が少ないという点では、安心できる。か?
そうではないと思う。運良く、偶然、大きな事故が起きていないに過ぎないと思う。
昨年、A線のB四丁目だか三丁目で、車内の乗客が転倒してけがをする事故があったと、新聞に掲載された。
記事は「発車直後に転倒した」とあったはず。停車直“前”の転倒なら、気の早い客が立ち上がったという、客の責任も大きいアクシデントだが、発車直“後”となればどうだろう。運転士が車内をよく確認したり、「発車します。ご着席ください」と一声かければ、起きなかった事故かもしれない。
事故扱い・ニュースにはならないが、他にも、似たような事例が起きたという話も聞いた。
※一般に、乗客が転倒するなど車内事故が発生すれば、その運転士は歩行者に対する事故を起こしたのと同様の責任を問われるそうです。乗客としては、不用意に車内を立ち歩かないよう心がけて協力するべきだが、だったら運転士側ももっと配慮して運転してほしいものでもある。
今は、けが人程度で済んでいるが、それは運がいいだけ(けがをしたお客には気の毒ですが)であり、運が悪ければ重大な事故につながらないとも言い切れないのではないか。
多少面倒かもしれないが、しずてつジャストラインのように目で見て、声を掛けるだけで事故の可能性を減らせるはずなのに、どうしてやらないのだろう。費用だって別段かからないのに。大きな事故が起きていない今だからこそ、取り組むべきだと思う。
もちろん、現在でも(声は出さなくても)確実に安全確認している運転士は大勢いるし、会社としても安全運転の研修などは実施しているようだ。だが、中には、手を抜いていると思わざるを得ない場面にも遭遇する。まして、しずてつジャストラインの取り組みを知ってしまえば。
秋田のバス会社(というか、しずてつジャストラインのような取り組みをしていない各バス事業者)はしずてつジャストラインの取り組みとそれに至った経緯を知っているだろうか。知っているとしたら、自分の会社で同じようなことがあったら…という想定・想像はしているのだろうか。
今回調べていたら、「運輸安全マネジメント」の存在を知った(前から何となく分かっていたけど)。
国土交通省のホームページ(http://www.mlit.go.jp/unyuanzen/outline.html)によれば、2006年に「運輸事業者の皆様自らが経営トップから現場まで一丸となり安全管理体制を構築・改善することにより輸送の安全性を向上させることを目的」に始まった制度で、バスやトラックの運行事業者に主体的かつ全社を挙げてに安全運行対策を取り組ませようとするものらしい。
策定した内容は「運輸安全マネジメントに関する取り組み」や「運輸安全報告書」として各社のホームページに掲載されていることが多く、例えば(貨物輸送者として)たけや製パンでも掲載している。
しずてつジャストラインでは、運輸安全報告書において、上記の声を出して確認することや、右左折・横断歩道通過の方法などが記載されている。他にも、研修や街頭監査するとかいろいろ書かれている。
しずてつジャストライン以外でも、日頃の運転や点検体制のみならず車両や設備(ドライブレコーダーなど)の改善に言及する会社も多い。それらが実行されれば、かなり安全に運行できることだろう。
「絵にかいた餅」になる恐れもあるが…
他のバス会社の運輸安全マネジメントを見てみた。会社によって内容にかなり差がある。
まず、秋田の某社(平成25年度)。
秋田市内の2つの営業所別に、目標とその達成の具体策を示している。
五城目と男鹿は記されていないが、その2つは営業所業務そのものを子会社に委託しているためだろう(子会社と連携を取る旨は記載されている)。
A営業所は当たり障りがないことだが、R営業所は「回転地での事故ゼロ(特に回転地)」が目標(カギカッコ内は原文ママ)。
カッコ内「特に回転地」が意味不明なのもおかしいが、そもそも回転地って基本的にはバスの占有地である。乗降客との事故は可能性があるし、間違って一般車両が入ることがあるかもしれないが、そんなに事故が起こるものだろうか。
その具体策で「ドライブレコーダーを活用」とか「除雪状態が悪い時は無理せず迂回運行」とあるのが、分からない。それらが回転地の事故防止になるの?
※この会社でもドライブレコーダーを搭載しているのか。【20日追記】たしかに、小田急中古のノンステップエルガミオには、運賃表示器の下辺りに「ドライブレコーダー取付車」とかいう黄色い表示があって、それらしきものが設置されていた。
今年度はどんな目標なんでしょうか?
「道路上での事故ゼロ(実質的には減少)」とかA線の事故を踏まえた「車内事故撲滅」を目指してほしい。
【2018年12月7日追記】その後、2018年には、A営業所管轄のO団地線のO停留所で、発車時に乗客が転倒する事故があった。新聞の社会面に小さく載っただけで、大事には至らなかったようだ。事故の状況は詳しく分からないが、現場は立ち客がいるほど混雑する区間ではないはずだし、周りの交通量を考えてもゆっくり走行することは可能なはず(時間帯も、混雑せず明るい頃だったと記憶する)。運転士が車内を確認し、アナウンスしてから動かせば防げた事故だったように感じられてならない。相変わらずのバス会社である。
他社と比べると、全般に中身が薄いように感じた。他社が「絵にかいた餅」だとすれば、それ以前の「絵にかいたすいとん」程度のような。
あと、自分が事故を起こさないことばかり書き連ねて、お客への配慮が少ないようにも感じる。上記、「除雪状態が悪い時は無理せず迂回運行」とあるが、それはお客に不便を強いることである。それに不慣れな迂回経路では、また違った事故を起こしてしまうかもしれない。
例えば「同時に道路管理者へ早期の除排雪を依頼し、迂回の解消に努める」とか「速やかに掲示やホームページでお客さまへ迂回の周知を行う」とか書き添えたらどうか。
あとは、「バス停誤通過の撲滅」も入れたらどうでしょ。
それにより、通過されたとあわてた客が転倒する車内事故、急停車して後続車に追突されるなど、事故防止にもつながると思う。もちろん乗客も安心して乗車できる。
もしくは、「弊社と仲が良い小田急バスに協力を仰ぎ、安全運転のノウハウを教えてもらう」とか。
他社ではよくある「社長(役員)が年に○回以上、全営業所を巡回し…」というのもないようだし。(経営者が現場にノコノコ来られても、迷惑なのかもしれないが…)
単純な誤字もあった。
経営者たちは果たして目を通しているのだろうか。ほんとうに全社を挙げて取り組んでいるのだろうか。
そういえば、NHKのローカルニュースで、昨秋の観光キャンペーンの映像が流れていた。
秋田駅の改札口で、かすりの着物のおばこに観光客がカメラを向けるシーンがあったのだが、その背後で、ぼーっと突っ立っていたのが、ここの社長さん。そこは気を使ってよけてくださいよ!
一方、青森の弘南バス。
弘南バスの平成23年度のマネジメントの資料「平成22年度経営方針 名実ともに地域No.1企業を目指す」では、取り組むことが細かく記載されている。
「身だしなみに気を配る」「職業運転士としての自覚を持つ」、車輌美化として「車内掲示物の確認、撤去」「(車内外、ガラスの)清掃」「定期的な板金作業実施」といった安全運行には直接関係ない項目、窓口や電話の対応、営業所の経費節減のため「ドアは開けたら閉める」「本社営業所間の情報伝達をFAXからメールへ」、貸切利用増のための営業活動といったことにも言及しており、全社的な取り組みであることが分かる。見習うべき会社がありそうだ。
「乗務員を呼ぶ際は(○○さん)」というのがあるのだが、じゃあ今まではなんて呼んでたの? 呼び捨て?
他にも弘南バスらしさを感じる箇所があって、おもしろい。
「お客様には優しさを持って接する(笑顔で応対、命令口調は×)」
→最初に断るが、少なくとも最近の弘前市内の弘南バスでは、接客態度が悪い運転士は見たことがない。
津軽弁の口調や言い回しが、遠来の人には乱暴に感じてしまうことはあると思う。最近は、白神山地などへ外国人も多く来るようになり、大変ではある。
「走行中の方向幕の操作禁止」
→方向幕とは行き先表示器。一般的には、LED式も、フイルムに印字した幕式でも、決められた数字を入力すれば、そのコマを自動的に表示する。
ところが、弘南バスの幕式のものは、自動停止機能がない。そのため、運転士が覗き窓から見ながら、「進む」「戻る」のスイッチを操作して表示を変えている。だから、正面の方向幕であっても、運転席から立ち上がらないと確認や操作はできない。
その操作を走りながらやらないということ。かなり“難易度”が高そうな行為だが、それをやった強者がいるのか?(信号待ち中はやっていいのかな?)
「降車ボタンの位置(座ながら押せる等)」
→正しくは「座ったまま押せる」ようにボタンの位置を改善しようということだろう。
今の新車はバリアフリー対応で降車合図ボタンの高さが決められているが、古いバスはまちまち。おかしな位置にボタンがある車もたまにある。秋田市営バスの194・195号車では、中ドアの戸袋の席のボタンがとても高い所にあって、座ったままでは手を伸ばしても押せなかった。
弘南バスでは企業の従業員送迎バスなど「自家用バス」だったものを中古で買って、路線用にしたものがある。最近は少なくなったようだが、弘前市外に多かった傾向。
「56122-10」(2008年撮影)
桜ヶ丘案内所所属(撮影当時は車庫機能があった)だった、1986年製の日野製中型車。子会社「弘南サービス」からの移籍車両のようだが、仕様としては自家用。窓の開き方からして、降車ボタンの位置は変則的だったはず。
元自家用ならば降車ボタンなどなく、弘南バスに来た時点で後付けされていた。ボタン自体はどこから持ってきたのかオージ製のちゃんとしたものだが、配線はホームセンターで売っているカバーを使ったりして、なかなか手が込んでいた。
その中に、押しにくい設置位置のものがあったのだろうか。
ただし、だいぶ前に乗った大鰐だか黒石の元自家用車両では、窓枠の下にボタンが設置されていて、これこそ押しやすい位置だと思った。
「(故障について)過去の事例から同年代、同型の車輌を点検修理する」
「廃車バスから活用できる部品を有効利用する」
→経年車が多い地方では、どこのバス会社でもやっていそう。
弘南バスの場合、上記のように種々雑多な形式と経歴の車輌があるから、「同年代、同型」でくくるのは大変そうにも感じる。
秋田の場合、自社発注か小田急中古のいすゞばかりだから、その点では楽でしょうか。
各社の自主性を重んじながら、安全運行をするのが運輸安全マネジメントの目的だとしても、ひとりよがりで意味がないことをやっていては、有名無実。他社の取り組みも参考にし、ほんとうに意味があってかつ実現可能な取り組みをしてもらわないと、役に立たない。
いくら注意しても事故は起こるものであるが、極力避けることはできるはず。各社には、そのことを忘れないで、できることはやってほしい。国土交通省ももっと口出ししてもいいのではないだろうか。
運輸に関わる者が最優先・最重要視することは「安全」である。そして、お客や地域住民の立場からすれば、地元の路線バスが事故を起こす姿なんて見たくないのです。