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諸田玲子著 「巣立ち」

2018年10月24日 10時10分42秒 | 読書記

図書館から借りていた 諸田玲子著 「巣立ち」 (新潮社) 読み終えた。「お鳥見女房」「蛍の行方」「鷹姫さま」「狐狸の恋」に続く「お鳥見女房シリーズの第5弾目」の作品だ

諸田玲子著 「巣立ち」

第1話 ぎぎゅう、
第2話 巣立ち、
第3話 佳き日、
第4話 お犬騒ぎ、
第5話 蛹のままで、
第6話 安産祈願、
第7話 剛の者、

代々 幕府の御鳥見役を務める矢島家の家付き女房珠世(たまよ)が、持ち前の明るさと機転で 次々と引き起こる問題に対処、乗り越えていくという人情時代小説である。
「巣立ち」では 嫡男久太郎が、失脚した水野忠邦の御鷹匠和知正太夫の三女で、「鷹姫さま」と呼ばれていた恵以(えい)と祝言を挙げるところから始まり、将軍家の御鷹狩の前夜 獲物の鶴が何者かに毒殺され 御鳥見役等関係者の責任が問われかねない危急事態に、夜を徹して奔走し、危機を救った、珠世の実父、隠居の矢島久兵衛門が疲労で倒れ、家族や掛け付けた矢島家に関わる人達に見守られ息を引き取るところで終わっている。
家族が減り、家族が増え、矢島家にも変化が有り 悲喜こもごも、苦労、悩み、嫁姑の関係も出てくる。しかし 憎しみ、妬みを持つ人達にも 温かい愛情を施す珠世、緊急事態にも 決して悲観的にならず 楽観的に 両頬にえくぼを浮かべる珠世、それが 周りの人達を落ち着かせ、和ませ、魅了させる。
他人を思いやることが いつしか必ずいい結果に繋がっていくことや、人間には 人の真意を見極める聡明さがどこかに有ることを、一貫して描いているように思う。
雑司が谷鬼子母神弦巻川 その周辺の、のどかな風景描写が頻繁にされており、その情景を想像しながら読み進めることが出来る。
一方で、大御番組与力永坂家に婿養子となり、久兵衛門がお鳥見役の裏の任務で関わりの有った女性の娘と婚姻することになった次男久之助は、義父甚兵衛から、異国船警戒、異国との戦いを覚悟せよと告げられる。異国が開国を迫りくる幕末が近い時代設定になっている。
家族や関わり合う人達皆を 深い愛情で包み込み 頼られ、慕われる珠世は、読者としては、こんな理想的な女性がいるはず無いと思える程、魅力的な女性に描かれている。
平易な文章で物語の展開も小気味好い。登場人物夫々のキャラクターや成長過程も 明確に伝わってくる。読み出すと一気に読んでしまえる作品である。

「幽霊の涙」に つづく。