ぼくはもっぱら、楽しみの為、一択で本を
読んでいる。それでいいのだ、と思ってい
るのだが、この世には本を憎悪し、悪書として
あげへつらい、或いは、愛する余り、燃やして
しまうひともいるらしい。
今日は、内田魯庵と云う昔の翻訳家の短編です。
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集英社文庫 大正三年
一語一語愛でるように読んだ。それくらい昔に
つかわれていた漢字には力がある。
今の漢字を軽く感じた。内田魯庵と云う人は、
ドストエフスキー「罪と罰」を訳出するなどして、
十九世紀文学を日本に初めて紹介したひとという
ことだ。
書盗とは、本当に本を盗む人のことで、昔はいたらしい。
借りて返さないこともそう言うと云い、法皇も致したこと
があると言う。その手の類例を挙げている。その次に
書狂と云うのを紹介している。これは書を護符かなにかの
ように思って集めることだけに専心し、書を愛す余り狂って
いるように見える人のことを言うらしい。ある英国の金持
ちの蒐集家が自分の持っている本の他にもう一冊巴里に
あると知って、海を渡り、その本を売ってくれ、弐萬五千
フラン払う、と言って、漸く売ってもらい、英国に帰り、
その本を燃やしてしまい、これで、私の本は一冊になった、と
天下一品になったことを喜んだと言うが、これは、
作り咄しかもしれに、と断っているが、本を燃やすとは
これは恐ろしい話である。