新潮文庫 昭和三十四年
まだ母も父も元気だった頃の話だ。ウサギのアンゴラの
毛を獲りたいがために買い始め、家中がすっちゃかめっちゃか
になっていくと云う。ミミズ、ナメクジのたぐいがおびただしく
棲息している、と云うのだから、気持ちが悪くなってしまう。
父は恨めしそうな目でぼくの毛を欲しそうにしている。
そのうち、アンゴラの毛の人気もなくなってしまい、ウサギは
食肉のソーセージの業者の指に噛み付いたりしつつ、売られて
ゆくことになる。赤貧洗うが如き、貧しさの中で、人生を
足掻いていたのは、ある意味幸せであったと云える時期
なのかもしれない、と思わせる。
(読了日 2024年12・1(日)22:45)
(鶴岡 卓哉)