中公文庫 1992年
昭和も末になる頃の、TVプロデューサーの久世氏
の世界を垣間見ることが出来る一冊。
同潤会のアパートに身を潜ませたい、と願ったり、
ヴィスコンティのヴェニスに死す、の主人公、アッシ
ェンバッハは作家から作曲家になったのは、ワーグナーの
影響であるとか、〈夭折〉した久坂葉子に言及したり、
それにしても、ぼくは夭折の機会を逸してしまった
ようだ。ずるずると生きてしまった自分が恥ずかしい、
と同時に、ずっと長生きしてやるという感慨もある。
高畠幸宵と云う人への言及。美人画で有名だったが、
竹久夢二よりマニアックだ。
または、なかにし礼という作詞家への言及。「同棲」ソングの
発明を指摘している。
または、上村一夫、向田邦子らへの言及。言葉に対する
感度の問題。
または、誰も知らないような、野溝七生子と云う陰棲作家
について語る。
最後に、北か南か問題への言及。結果、ぼくは南に向かったわけだが
ぼくには後悔はない。寒いのは好きだが、寒すぎるのはちょっと。
夏も終わり、昭和も終わって久しい、久世氏の死から18年、
死んだ人には敵わない……そうだな、その通りですよ。
(2024年11・27(水)17:00)
(鶴岡 卓哉)