映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ハート・ロッカー

2010年03月07日 | 映画(は行)
恐怖と緊張の中で・・・



             * * * * * * * *

まさに現在の戦争映画。
イラク、バグダッド。
米軍爆発物処理班の新リーダーとして、ジェームズ2等軍曹が着任します。
これまでも数々の成果を上げてきた彼は、
向こうみずな行動をし、部下サンボーンとエルドリッジをいらだたせる。


映像はまるでドキュメンタリー作品のように揺れて兵士に肉薄します。
爆弾処理という最も緊張を強いられる場面。
重い防爆スーツに身を包み、一人作業にあたるジェームズ。
不意の銃撃や思いがけない爆発。
そこは常に死と隣り合わせ。
今、ここで会話を交わしていた同僚が、次の瞬間には死体となって転がっている。
こういう怖さは、私たちは映画などで知った気になっていますが、
本当のことは何もわかってはいないのですよね。きっと。
映画なら一瞬ですが、
現実はとてつもなく時間は長いのでしょうね。
映画にあったように、
どこから銃弾が飛んでくるかわからないような中で
敵と対峙するじりじりした時間。
緊張。恐怖。
その後は立ち上がることも出来なさそうです。


そしてまた、兵士でなくとも、
日々このような戦場のただ中で生活している人々がいるというのも、
全く信じられないような話ですが・・・。
これを信じられないなどという方が平和ぼけもいいところなのかもしれません。
彼ら兵士は、任務満了まであと○○日・・・などと、限りがあることですが、
そこの住人にとってはいつ果てるともない地獄なんですね。
そのような状況も見につまされます。




さて、この作品の冒頭で、「戦争は麻薬に似ている」という言葉が示されます。
戦場という恐怖と緊張の中で、兵士は異様な高揚感に見舞われるのです。
アドレナリンの大放出とでも言うのでしょうか。
正確なことはよくわかりませんが・・・。
こういうことが繰り返されると、その高揚感が一種快感のようになってくる。
危険であり命取りとわかっていても、
まるで麻薬のようにそこから逃れることが出来なくなってくる。
ここでは、ジェームズは決して戦場のヒーローではありません。
結局は戦果を上げ生還したとしても、彼の心は深い傷を負っている。


いったい何のための戦争なのか。
誰のための戦争なのか。
兵士にはそんなことはどうでもいいのですね。
ただ国の方針と上からの命令に従うのみ。
この作品にも、そんなことへの疑問はつゆほども出てきませんが・・・。
でも、もうそろそろ考えてみた方がいい。
肉体の傷のみならず、このように心まで傷つき、
ぼろぼろになっていく人が後を絶たないのでしょう。
それは相手方でも同じこと。


この作品は、死と隣り合わせの戦場の緊迫感と、
そんな中で「敵」というよりはむしろ
「恐怖に負けそうになる自分」との戦いを強いられている兵士たちの姿を
描き出していると思います。
今投げかけられるべき、戦争への問いかけの一つとなるでしょう。




2008年/アメリカ/131分

監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、ガイ・ピアーズ、レイフ・ファインズ


映画『ハート・ロッカー』予告編