映画と本の『たんぽぽ館』

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「サクリファイス」 近藤史恵

2010年03月09日 | 本(その他)

サクリファイス (新潮文庫)
近藤 史恵
新潮社

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トップにならなくても勝利できる

             * * * * * * * *

この本を手に取ったのは、自転車ロードレースがテーマであったためです。
・・・自慢じゃありませんが、自転車ロードレースのことなど何も知らなかった私なのですが、
以前に読んだ「Story Seller」の中の短編「プロトンの中の孤独」という作品にいたく感動し、
興味を持っていました。
同じ著者によるこの作品、
実はこちらの「サクリファイス」が先で、
「プロトン・・・」の方はこの外伝とも言うべき作品だったわけです。
こちらに登場するある人物の若い頃の物語。


さて、この本ではプロのロードレースチーム、
チーム・オッジの白石誓(ちから)が語り手となっています。
彼は以前陸上選手だったのですが、
ただ自分のためにゴールを目指すことに違和感をもち、転身しました。

自転車ロードレースは団体戦。
チームにはエースと、
エースのために尽くすアシストという役割分担がはっきりとしているのです。
アシストはエースの前を走ってエースの体力温存を図ったり、
団体の前に飛び出して他チームのペースを崩したり。
結果、自分が最下位となっても、チームのために尽くせばそれでよいという立場。
自分がトップにならなくても、チームのために役立つこと、
そういう役割を良しとする白石の生き方には、なんだか共感が持てるのですね。
また、こういうところが、この競技の魅力でもあるわけです。

それでこの作者なので、基本はミステリなんです。
白石が尊敬する先輩石尾。
一見温厚そうな彼が、影ではライバルをつぶしていく恐ろしい男と噂されています。
かつて、彼のせいで事故に遭い半身不随となった者がいるとか。
その石尾が、あるレース中に悲惨な事故で命を亡くします。
この事故の真相は?
そして、彼は本当にそのような冷酷な男だったのか・・・。


ちなみに「サクリファイス」とは「犠牲」の意味なんですが、
アシストはある意味、そういう立場にあるわけです。
けれども、このストーリーを読めば、
私たちはもっと大きな「サクリファイス」の意味を知ることになるでしょう。
ロードレースの過酷さやスピード感、
そしてレーサーたちの熱い思いが伝わるすばらしい作品です。


さて、最近「Story Seller2」が出ていまして、
こちらにもこの自転車ロードレースストーリーが載っています。
早速読まなければ。
それと、単行本で「エデン」というこの本の続編が3月刊行だそうで。
うーん。
これは文庫化が待ちきれずに買ってしまいそう・・・。

満足度★★★★★