映画と本の『たんぽぽ館』

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いけちゃんとぼく

2010年03月20日 | 映画(あ行)
早く大人になりたい

                * * * * * * * *

いけちゃんとぼく [DVD]

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癒し系、不思議な生き物いけちゃん。
この映像で、もっとほんわかしたファンタジーのようなストーリーを想像していました。
ところがこれは、不条理な不幸・重圧の中で、“大人”になっていく少年の物語です。

ある海辺の小さな町。
映画の冒頭は、ヨシオが海でおぼれかけ、死にそうになるシーンから始まります。
「もうだめだ・・・死ぬんだ・・・水上に見える光は・・・あれが神様???」
ところが実はそこはとても浅くて、
あっさりと立ち上がってみれば、相も変わらずのどかな海辺。
そこでヨシオはひどくショックをうけるのですね。
もし自分が死んでも、世界は全く変わらない。
世界の中心は自分ではなくて、
自分は世界に何の影響も持っていないちっぽけな存在なんだ・・・。
こういう世界と自分の認識をまず冒頭に持ってくるというのがすごいです。
このストーリー上の、ヨシオの大人への第一歩ですね。


さてヨシオは、いつも体の大きな同級の2人に殴られているのです。
「クラスの他のヤツはみんな泣いたのに、何でおまえだけ泣かないんだ。泣くまで殴ってやる」
“力で人の心は操れない。”
・・・そうつぶやくヨシオだけれど、いつも殴られっぱなし。
本当は逃げ出したい。
そんなある日、ヨシオのお父さんが急死。
お母さんは生活を支えるために仕事を増やして、ヨシオはいつもひとりぼっち。


そんなヨシオにいつも寄り添って慰めるのが、この変な生き物、いけちゃん。
いけちゃんはヨシオにしか見えません。
いじめっ子。
父の死。
おまけに友達とけんかまでして、八方ふさがり。

子供は純真で夢いっぱいなんて誰が言ったのか。
苦悩の固まりじゃないですか。
早くこんなことで動揺しないように、たくましくなりたい。
早く大人になりたい。
そう思うヨシオ。
いけちゃんは、実際には何の手助けも出来ないのだけれど、
いつもヨシオに寄り添って話を聞いて、認めてあげている。
こういう存在が、子供のよりどころとなるのかもしれませんね。

この結末は、ヨシオがいじめっ子2人をやり返し、殴り倒すのでしょうか?
いえいえ。
ちょっと想像のつかない顛末になります。
強いヤツには、それより強いヤツがいて、そのまた上にもっと強いヤツがいる。
いじめの連鎖は断ち切らなきゃだめなんだ。
そう考えるヨシオは・・・・。
なんてすばらしい発想と行動力。
いつの間にかすっかり大人びています。
しかし、この成長したヨシオには、もういけちゃんを見ることが出来ない・・・。


大人になるということは、子供の頃持っていた何かを失うことでもあるわけです。
これは決して子供向けのファンタジーではありません。
是非ごらんいただきたい感動作。

それにしても、本当に私は少年少女がけなげにがんばる成長ストーリーが好きなんですよね-。
今時の草食男子でなく、こういうがっしりした頼りがいのある男子がいいなあ。
ヨシオはどんな青年になるのか、それも見てみたかったです。
ほんのちょっぴり、大学に入学したてのシーンはありましたけど。

2009/日本/107分
監督・脚本:大岡俊彦
原作:西原理恵子
出演:深澤嵐、ともさかりえ、萩原聖人、(声)蒼井優