映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「小暮写眞館」 宮部みゆき 

2010年07月13日 | 本(その他)
生きていくことは大変だけど、やっぱり生きていこうよ・・・

小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
宮部 みゆき
講談社


              * * * * * * * *

ボリュームたっぷりのこの本。
宮部ファンとしては手に取っただけでわくわくしますね。

さてこの本、語り手は高校生花菱英一。
通称花ちゃん。
最近引っ越してきた家は、古い写真屋さん。
変わり者の両親は、この建物を壊して新しい家を建てることをせず、
スタジオがあったりするその写真館のままの建物に住むことにしたのです。
その写真屋の看板もそのままにしてあって、
だから「小暮写眞館」と、「眞」の字が旧字体なんですね。
今、文字を打って初めて気がつきました!!


そんなわけで、通りがかりの人はその写真館がまだ営業中だと勘違いしたりする。
そして、英一のところに、不思議な写真が舞い込むことになるのです。
この物語の前半は、こんな風に心霊写真まがいの不思議な写真を、
英一が解き明かしてゆくという心霊探偵(?)みたいな話なのですが、
しかしこれはほんの導入部。
英一には小学生の弟がいるのですが、実はその間にいた妹が幼いうちに亡くなっています。
家族皆は、この子を亡くしたことでそれぞれに深く傷ついているのですが、
それを口に出すことを避けてきたようなところがある。


英一の友人たち、弟、両親、親類たち。
そしてこの家を紹介してくれた不動産屋と、そこに勤める垣本順子。
プラス時折気配を感じさせる小暮老人!!
このような人たちとの交友を通したなかで、
亡き妹への封印された哀しみを再びよみがえらせ、昇華していく、
このような芯となるストーリーに
様々なエピソードが連なります。
最後の方は、ほとんどラブストーリーです。
しかも相当切ない。

読み進むうちに印象が変化していく、七色キャンディみたいな本だなあ。
・・・と、よく見たらこの本、
第一話、二話、三話、四話とはっきりくぎりがあるのでした。
ストーリーはしっかり時系列に並んで進行しているのですが、
つまりは章ごとのテーマがそれぞれにあるので、
印象が変わっていくのは当然ということでした!

さて、読み終えてから、改めてカバー表紙の写真を良く見ましょう。
ああ・・・! 
思わず感慨に浸ります。
これは物語の中で大変に意義のある写真なのです。
すばらしいですね。

結局生と死をじっくり見つめるストーリーなのだろうと思います。
今は亡き小暮老人の思い。
幼い妹の死がどんなにその後の家族の心に影を落としてきたのか。
生きていてさえも、その強い思いが写真にまで写り込んでしまう人々。
そして、生に背を向けようとする人。
様々な人々の思いの果てに今があって今の自分がある。
生きていてこそ、そのように感じられる今を
やっぱりいとおしく思う。

            * * * * * * * *

私はやはり垣本さんのストーリーが一番好きです。
その中でこんな話がありました。
自殺しようとした人がそうではないと言うのだったら、
周りの人も「自殺」と認めてはいけない、というのですね。
薬の量を間違えた、と言うのなら、その通りと認める。
走ってくる電車の正面を見てみたかった、というのなら、
もっと安全でじっくり正面から電車を見ることができるスポットを紹介してあげる
・・・というように。
辛辣でとげとげしいこの垣本さんのことを、何故か気になってしまう英一。
いいですねえ。
ストーリーのラスト付近では、すっかり"いい男"に成長した英一がいます。
友人たちがまた、コゲパン、テンコ、鉄道部の人たち・・・。
個性たっぷりで魅力的。
とにかく読み進むのが楽しく、
読み終わるのが惜しくなってしまう、そういう本なのでした。

満足度★★★★★★←ひとつオマケ