百貨店の迷宮=心の迷宮?
* * * * * * * * * *
表紙は、おなじみクラフト・エヴィング商會のシンプルな装丁。
なんだか大事すぎて、しばらく読まずに積んでありました。
百貨店の寝具売り場に勤めながら、百科事典の執筆に勤しむ<小さな男>。
ラジオのパーソナリティで、日曜深夜一時からの生番組に抜擢された34歳<静かな声>こと静香。
この本はこの二人のことが交互に描かれています。
そしてまた、読んでいるうちにふと「あれ?」と思わせられるのは、
はじめ一人称で語られていた文章が、途中から三人称になるのです。
<小さな男>が自ら "私"を主語として描かれていたものが、
次の章からは第三者から見た"彼"が主語になる。
と、いうふうに。
なんだか不思議な感じです。
本人が幽体離脱して、中空から自分を見下ろして語っているような・・・。
ちょっぴり幻惑される雰囲気がありますね。
この二人には特につながりがなく、ひたすら交互に彼らの身の回りのことが描かれるのですが、
じきに二人をつなぐ人物が登場。
いえ、別に二人の間を取り持つとか、そういう意味ではありません。
このミヤトウさんは、<小さな男>と同じ「ロンリー・ハーツ読書倶楽部」に所属していています。
そしてまたこのミヤトウさんは<静かな声>の勤める放送局の売店に勤務していて、
<静かな声>と親しくなっていきます。
そんな経緯は知らぬことながら、<小さな男>は毎日曜深夜の<静かな声>の放送を楽しみにしている。
この三人の共通点はつまり「ロンリー・ハート」なのでしょう。
物静か、内省的。
友人と呼べる人は多分少ないのでしょう。
この3人が少しずつ互いの距離を狭めて、いろいろなことを語り合えるようになっていくのが、
とても心地よく感じられます。
私にとってはこの本全編が<静かな声>の深夜放送のように、
密やかに心地よく心に響いてきます。
この密やかな佇まいこそが、吉田篤弘氏の持ち味なんですよね~。
ところで、<小さな男>が勤める百貨店の、寝具売り場までの道筋に、
痛く感銘(?)を受けてしまいました。
従業員はお客様用のエレベーターやエスカレーターは使用禁止と見えます。
(開店前や閉店後ならいいじゃないと、思えてしまいますが・・・。)
従業員用の通路があるのですが、この百貨店は、増築を繰り返したためか、その通路が迷路のよう
・・・ではなく、完全に迷路になり果てており、
まずは、入り口から自分の持ち場の6階寝具売り場にたどり着くまでが一仕事・・・。
過去にはこの迷路にはまり込んだまま行方不明となった人もいるとか・・・。
いやはや・・・。
私は、これは<小さな男>が、「やはり」とか「ついに」とか「すべて」とか、
言葉のイメージ=観念の迷路にはまり、
堂々巡りをしている有様を表しているかな・・・などと思いました。
やがて、そんな<小さな男>が、この迷路を自転車で駆け抜ける(夢の中ですが)。
何らかの行動が自分の周りの世界を変えて行く・・・
そんな意味があるのでは・・・などと。
何れにしても、また私の大切な一冊になりました。
「小さな男*静かな声」吉田篤弘 中公文庫
満足度★★★★★
小さな男*静かな声 (中公文庫) | |
吉田 篤弘 | |
中央公論新社 |
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表紙は、おなじみクラフト・エヴィング商會のシンプルな装丁。
なんだか大事すぎて、しばらく読まずに積んでありました。
百貨店の寝具売り場に勤めながら、百科事典の執筆に勤しむ<小さな男>。
ラジオのパーソナリティで、日曜深夜一時からの生番組に抜擢された34歳<静かな声>こと静香。
この本はこの二人のことが交互に描かれています。
そしてまた、読んでいるうちにふと「あれ?」と思わせられるのは、
はじめ一人称で語られていた文章が、途中から三人称になるのです。
<小さな男>が自ら "私"を主語として描かれていたものが、
次の章からは第三者から見た"彼"が主語になる。
と、いうふうに。
なんだか不思議な感じです。
本人が幽体離脱して、中空から自分を見下ろして語っているような・・・。
ちょっぴり幻惑される雰囲気がありますね。
この二人には特につながりがなく、ひたすら交互に彼らの身の回りのことが描かれるのですが、
じきに二人をつなぐ人物が登場。
いえ、別に二人の間を取り持つとか、そういう意味ではありません。
このミヤトウさんは、<小さな男>と同じ「ロンリー・ハーツ読書倶楽部」に所属していています。
そしてまたこのミヤトウさんは<静かな声>の勤める放送局の売店に勤務していて、
<静かな声>と親しくなっていきます。
そんな経緯は知らぬことながら、<小さな男>は毎日曜深夜の<静かな声>の放送を楽しみにしている。
この三人の共通点はつまり「ロンリー・ハート」なのでしょう。
物静か、内省的。
友人と呼べる人は多分少ないのでしょう。
この3人が少しずつ互いの距離を狭めて、いろいろなことを語り合えるようになっていくのが、
とても心地よく感じられます。
私にとってはこの本全編が<静かな声>の深夜放送のように、
密やかに心地よく心に響いてきます。
この密やかな佇まいこそが、吉田篤弘氏の持ち味なんですよね~。
ところで、<小さな男>が勤める百貨店の、寝具売り場までの道筋に、
痛く感銘(?)を受けてしまいました。
従業員はお客様用のエレベーターやエスカレーターは使用禁止と見えます。
(開店前や閉店後ならいいじゃないと、思えてしまいますが・・・。)
従業員用の通路があるのですが、この百貨店は、増築を繰り返したためか、その通路が迷路のよう
・・・ではなく、完全に迷路になり果てており、
まずは、入り口から自分の持ち場の6階寝具売り場にたどり着くまでが一仕事・・・。
過去にはこの迷路にはまり込んだまま行方不明となった人もいるとか・・・。
いやはや・・・。
私は、これは<小さな男>が、「やはり」とか「ついに」とか「すべて」とか、
言葉のイメージ=観念の迷路にはまり、
堂々巡りをしている有様を表しているかな・・・などと思いました。
やがて、そんな<小さな男>が、この迷路を自転車で駆け抜ける(夢の中ですが)。
何らかの行動が自分の周りの世界を変えて行く・・・
そんな意味があるのでは・・・などと。
何れにしても、また私の大切な一冊になりました。
「小さな男*静かな声」吉田篤弘 中公文庫
満足度★★★★★