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「娘と嫁と孫とわたし」藤堂志津子

2016年05月22日 | 本(その他)
不協和音の女達

娘と嫁と孫とわたし (集英社文庫)
藤堂 志津子
集英社


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息子の嫁・里子と孫の春子と暮らす65歳の玉子。
里子との生活は穏やかだが、
実の娘の葉絵は40歳近くなっても反抗期の真っ最中。
巻き起こる騒動と女性の本音をコミカルに描く全3編


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娘と嫁と孫とわたし・・・ということで
「わたし」である玉子65才の心情を中心に描かれている本作。
一見のどかなホームドラマっぽいのですが、
そこは藤堂志津子さん作品なので、ちょっぴりシニカルです。
娘も嫁も孫も、そしてもちろん「わたし」も女性。
うまくいくこともありますが、ダメなこともありそうです。
嫁がいるくらいなら、その婿つまり玉子の息子はどうしたのかというと、
これが事故で亡くなっているのです。
一人息子を亡くし、生きる支えを失った玉子が心配で、
嫁・里子と孫娘が同居するようになったのです。
というわけで、嫁・姑の仲はまあまあよろしい。
では何が問題か。
それは、すでに結婚している実の娘・葉絵と母である玉子がうまくいかないのです。


葉絵は、玉子が兄ばかりを可愛がり、自分は心理的虐待を受けていたと、
今になって母をなじるのです。
そこまで母を信頼していないのなら、来なければいいと思うのですが、
ちょくちょくやってきては、キレて母を罵倒する。
つまりはこれも甘えなのでしょうね・・・。


血が繋がっていればいいというものではない。
その血のつながりが断ちがたいからこそ、厄介なこともある。
そうしたものです。
だから、玉子は実の娘が来るとつい緊張して身構えてしまう。
さて、そこでまた一人の不在に気がつくのですが、
それは玉子の夫です。
はじめの方では全く登場しないので、すでに亡くなっているのかと思いきや、
実はちゃんと生きている。
二人の一人息子が亡くなった時に、彼もまた
「思い出の詰まったこの家にいるのは耐えられない」
と言って、妻を残して出て行ってしまったのです。
妻だってよほどダメージを受けているというのに、そんなことには全く思い至らない。
妻を見下し、自分本位。
いや全く鼻持ちならない。
そんな元夫が、病に犯され、この家に戻りたいという・・・。
はてさて・・・。


不協和音いっぱいの女達でしたが、
こんな、てんやわんやのうちに少しずつ「同士」のような連帯感が芽生えてきますね。
そういうところがやはり家族の物語なのです。
本作は残念ながら孫である春子の心情にはあまり触れられていないのですが、
春子目線でこのストーリーを見れば、また違う発見がありそうです。

「娘と嫁と孫とわたし」藤堂志津子 集英社文庫
満足度★★★.5