映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「何者」浅井リョウ 

2016年05月18日 | 本(その他)
本当の悩みや夢は書けない

何者(新潮文庫)
朝井 リョウ
新潮社


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就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。
光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。
瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、
理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。
だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、
本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。
直木賞受賞作。


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まさに現代を生きる若者たちの「就活」をめぐるドラマですが、
それは清々しい青春物語では決してありません。
若者たちは自らの就活の進捗状況を逐一ツイッターで発信していきます。
友人たちのツイッターと実生活を見ている拓人は、
そのツイッター文の虚しさを指摘しながら、
彼の目線で物語は進んでいくのですが・・・。


自分をひたすらかっこよく見せたり、
あるいはあえて失敗談で笑いを取ってみたり、
それでも彼らは自分の思いを発信せずに入られない。
だけれども本当に悩んでいることや、本当は夢見ていることは、
書かないし、書けない。
分かる気がします。
拓人はそういうことをしっかり分析していきます。


でも本作で気がつくのは、拓人自身のツイッターがほとんど出て来ないということ。
彼はそういうことをしない人間なのかというと、そうでもなさそう・・・。
実はここに罠があった。
若干衝撃的ラストに、驚かされました。


表面の顔と裏の顔。
こういうのを使い分けて生きていくのはいかにも大変そうだ・・・。
そんなにヒリヒリしないで、もっと自然体で行こうよ・・・。
唯一、光太郎くんのポジティブで正直な有り様が救いでした・・・!!

「何者」朝井リョウ 新潮文庫
満足度★★★.5